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2020民法大改正|ビジネス実務への影響㉘ 請負

2020民法大改正|ビジネス実務への影響㉘ 請負

民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。

そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。

今回のテーマは「請負」です。請負に関しては、担保責任の内容について(特に、建物その他土地の工作物の請負の場合における契約の解除)、契約が中途で解除された場合における報酬請求権について改正がありました。

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1. 請負人の担保責任

(1)改正前の民法における請負人の担保責任

改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、請負人の担保責任について、以下のように規定していました。

① 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。(旧民法634条1項)

② 注文者は、瑕疵の修補に代えて、またはその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条(同時履行の抗弁権)の規定を準用する。(旧民法634条2項)

③ 仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。(旧民法635条)

④ 634条および635条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質または注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。(旧民法636条)

⑤ 第634条から第636条の規定による瑕疵の修補または損害賠償の請求および契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。(旧民法637条1項)

⑥ 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前記⑤の期間は、仕事が終了した時から起算する。(旧民法637条2項)

⑦ 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物または地盤の瑕疵について、引渡しの後5年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、10年とする。(旧民法638条1項)

⑧ 工作物が前記⑦の瑕疵によって滅失し、または損傷したときは、注文者は、その滅失または損傷の時から1年以内に、第634条の規定による権利を行使しなければならない。(旧民法638条2項)

⑨ 第637条および第638条第1項の期間は、第167条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。(旧民法639条)

⑩ 請負人は、第634条または第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。(旧民法640条)

(2)改正後の民法における請負人の担保責任

改正後の民法(以下「新民法」という。)は、売買における売主の担保責任を債務不履行責任の特則と捉えていますが、請負人の担保責任についても債務不履行責任の特則と捉え、請負人の担保責任については、売買における売主の担保責任の規定を準用して、以下のように整理しました。

① 請負人が種類または品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質または注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。(新民法636条)

② 前記第636条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができない。(新民法637条1項)

③ 第637条1項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。(新民法637条2項)

上記の規定により、請負人が種類または品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しないとき)、例えば、建物建築請負契約において、請負人が完成させた建物に欠陥があったような場合には、注文者は、履行の追完の請求(修補請求等)、報酬の減額の請求ができ、また、債務不履行に基づく損害賠償の請求および契約の解除をすることができます

旧民法の下においては、建物その他土地の工作物の請負においては、旧民法635条ただし書きの規定により契約の解除は認められていませんでしたが、改正により、この規定は削除されました。その結果、建物その他土地の工作物の請負においても、債務不履行の規定に基づき契約の解除ができることとなりました

なお、担保責任の期間の制限について、旧民法では、仕事の目的物を引き渡した時から1年(仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、仕事が終了した時から1年)以内を原則としつつも、建物その他の土地の工作物の請負については、特則(旧民法638条)を設けていましたが、改正により、旧民法638条のような特則は削除されました。

その結果、仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合には、注文者は、その不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、原則として、その不適合を理由とする履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができないこととされました。

2. 請負契約が中途で解除された場合における報酬請求権

請負の報酬は、完成した仕事の結果に支払われるものとされ、中途で契約が解除されるなどした場合については、旧民法は、特にルールを設けていません。

他方で、判例は、請負契約が中途で解除されたケースにおいても、注文者が利益を得られる場合には、中途の結果についても、利益の割合に応じた報酬の請求は可能であると判断しています。

ただ、民法に明文の規定がないことから、中途の結果について報酬が請求され、紛争に発展するケースが実際にも少なくないことから、明確なルールが必要とされていました。

そこで、新民法は、以下のとおり、仕事が完成しなかった場合の報酬に関する規定を新設しました。

次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる(新民法634条)。
① 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
② 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

企業が、新たに社屋を建築する場合、一般的には、建設業者にこれを請け負わせることになりますが、完成した建物に欠陥等の「契約不適合」があったときは、民法改正前においては、救済手段としては、瑕疵の修補請求と損害賠償請求が認められているにすぎなかったのが、代金減額請求や契約の解除も認められることになったのは、きわめて大きなメリットであるといえます。
また、旧民法が土地の工作物における担保責任の追及について、原則として「引渡しの時」から5年または10年としているのを、新民法が「不適合を知った時」から1年としたことも、個々の事例によっては、注文者側に有利に働くことが多いと思われます。

他方、建設業者の側としては、担保責任の改正を踏まえた「約款」等の見直しが急務となるものと思われます。

ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点

連載「2020民法大改正|ビジネス実務への影響」、今回は「請負」について解説しました。

次回は「組合」について解説します。

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