公認会計士とは、国家資格の中で唯一、企業の監査業務を行うことができる資格です。
公認会計士の資格は合格率が低いということもあり、公認会計士になるためには、多くの勉強時間が必要です。
今回は、公認会計士の資格を取るために必要な勉強時間や試験内容などについて紹介します。
この記事の目次
公認会計士の合格に必要な勉強時間は平均4,000時間
公認会計士の資格を取得するために必要な勉強時間は、一般的に平均4,000時間とされています。
司法書士の資格取得にかかる勉強時間が平均3,000時間とされていることを踏まえると、公認会計士の資格取得には多くの勉強時間が必要になることが分かります。
公認会計士資格取得には多くの勉強時間が必要
公認会計士の資格を取得するためには、長い時間を勉強に充てる必要があります。
これほど多くの勉強時間が必要とされる理由には、以下が挙げられます。
勉強時間が多い理由①試験範囲が広いため
公認会計士の試験では、財務会計論や管理会計論、監査論など複数の科目を受験する必要があり、出題範囲が広くなっています。
試験科目は短答式試験が4科目、論文式試験が5科目となっており、それぞれの試験方式に応じて対策をしなければなりません。
試験範囲が広い分、すべてを網羅するためには、ひとつの科目に費やさなければならない勉強時間も自然と多くなってしまいます。
合格を目指すには、1日に充てられる勉強時間を把握したうえで、試験日から逆算してどれくらいの日数を確保する必要があるか、計画的に勉強スケジュールを組むことが重要です。
勉強時間が多い理由②競争試験であるため
公認会計士の試験には、一定の合格ラインはありません。受験者のうち、点数が上位の人から順に合格する「競争試験」となっています。
一定の点数を超えれば全員が合格するというわけではないため、受験者との競争のなかで、上位にランクインしなければなりません。
ところが、試験までに他の受験者のレベルを把握することはできないほか、合格ラインも試験によって変わってきます。
「ここまで勉強すれば大丈夫」という明確な基準がなく、勉強量や対策範囲をコントロールしにくいため、結果的に勉強時間を増やすといった動機付けにつながりやすくなります。
このように、いかに多くの勉強時間をかけられるかによって、合格への道が開けます。
ただし、闇雲な努力が必要というわけではありません。
計画なく勉強時間を増やすだけでは、合格から遠ざかってしまう可能性があります。
効率的に知識を習得していくためには、勉強スケジュールや目標をしっかり立てて計画的に取り組むことが重要です。
何回目の受験かによって必要な勉強時間が変わる
公認会計士の資格を取得するためには、平均4,000時間の勉強が必要と説明しました。
しかし、この勉強時間の目安は「試験を何回受けているか」によって変わります。
初めて試験を受ける人であれば、勉強時間は4,000時間が平均となっていますが、公認会計士の資格を取得できるまで、2回や3回の受験をする場合がほとんどです。
複数回の受験が必要となった場合、それだけ勉強時間も増えるため、平均的な勉強時間よりも多くの時間が必要になるケースも少なくありません。
知識の習得度や勉強のペースによっては、勉強時間が5,000時間を上回ることもあります。
【受験者別】合格までの勉強期間の目安
公認会計士の資格を取得するための勉強時間は、受験者の状況によって異なります。
ここからは、受験者の状況別に、合格までの勉強期間の目安を紹介します。
【受験者別】合格までの勉強期間の目安
公認会計士の資格勉強に専念できる人
学生や社会人などに該当せず、公認会計士の資格を取得することに専念できる人の場合、合格までの勉強期間は約1年〜1. 5年と比較的短くなっています。
なぜなら、学業や仕事に時間を充てる必要がなく、1日のうちに多くの勉強時間を確保できるためです。
とくに公認会計士を取得するための専門学校に通っている人は、約1年〜1. 5年の短期間で資格を取得できるケースも多くなっています。
働きながら勉強する社会人
働きながら公認会計士の資格を取得するには、目安として合格までに約2年〜3年の勉強期間が必要となっています。
現在働いている人の場合、仕事からの帰宅後や休日に勉強をすることになります。
資格の勉強に専念できる人と比べると、1日のなかでまとまった勉強時間を確保しにくくなるため、合格までの期間も長くなりやすい傾向があります。
学業とアルバイトを両立しながら勉強する大学生
大学の講義を受けたり、アルバイトをしたりしながら勉強する大学生の場合、合格するまでに必要な勉強時間の目安は1. 5年〜2年となっています。
大学生の場合、学業とアルバイトを両立していくなかで、資格取得のための勉強時間を確保しなければなりません。
人によって異なりますが、1日のうちに確保できる勉強時間は3〜4時間ほどになってしまうケースも少なくありません。
独学で勉強する人
公認会計士の資格取得を目指している人の中には、独学で勉強する人もいます。
独学で勉強する人は、合格までに2〜4年、またはそれ以上の期間を要してしまうことがあります。
独学の場合、自分のペースに合わせて勉強時間を設定できたり、その日に勉強する科目を選択できたりと、多くのメリットがあります。
しかし、参考書や問題集だけを使って独学で勉強する場合、「理解が難しい」「覚えるコツが分からない」といったように、非効率な勉強になってしまう可能性があります。
公認会計士の試験では、会計や財務に関する専門的な知識が問われるため、独学だけでは知識の習得が難しいという人も少なくありません。
思うように知識が身に付かなければ、モチベーションを保つことが難しくなり、結果的に勉強期間が長くなってしまうことがあります。
公認会計士の勉強を始める前に行うこと
公認会計士になるには長期的な勉強が必要になるため、勉強時間やスケジュールについて計画を立てておくことが重要です。
ここからは、公認会計士の資格勉強を始める前に行うべきことを解説します。
公認会計士の勉強を始める前に行うこと
試験日から逆算して勉強時間を決める
資格勉強を始める前は、試験日から逆算して、勉強できる日数・時間がどれくらいあるのか確認しておく必要があります。
公認会計士の資格取得には長期の勉強が必要になるため、試験日をゴールとして勉強日数・時間を算出していなければ、時間が足りなくなってしまう可能性があります。
受験者によって勉強できる環境は異なるため、「週に何回」「1日に何時間」といったように、自分の勉強ペースを決めておくことが重要です。
なお、公認会計士の試験は、例年であれば年2回となっています。
直近の試験日までに十分な勉強時間を確保できない場合は、次回・次々回の試験を目指すことも手段の一つです。
勉強の計画を立てる
試験までの勉強日数・時間を決めたあとは、「科目ごとにどれくらいの勉強時間を充てるか」時間の配分について計画を立てる必要があります。
公認会計士の試験は、出題範囲が広く、対策しなければならない科目も多岐にわたります。
とくに独学で勉強する人の場合、科目によって勉強時間が偏ってしまうことも少なくありません。
必要な対策を網羅するためには、それぞれの科目に充てなければならない勉強時間を把握したうえで、スケジュールを立てておくことが重要です。
科目ごとの勉強時間とスケジュールを決めることで、「特定の科目に多くの時間を費やしてしまった」「後半の科目を勉強する時間がなかった」という事態を防げます。
自分の苦手分野がある場合は、その科目の勉強時間を増やす、定期的な復習を挟むといったように、勉強時間を調節するのも有効です。
計画に予備日を設定する
勉強の計画を立てる際は、予備日を設定しておくことも重要です。
勉強時間やスケジュールを決めていても、習得に時間がかかったり、体調を崩してしまったりと、予定通りに勉強が進められないこともあります。
予備日を定めておくと、急用があった際に別の日に勉強の予定をずらす、不安な科目を重点的に復習するといった調整ができるようになります。
勉強の予定が詰まりすぎていると、気持ち的にも余裕がなく疲れてしまいます。
予備日を設けておくことで、気持ちの面でも余裕が生まれ、勉強の効率アップにもつながります。
試験内容と勉強時間の割合
公認会計士の試験は範囲が広いため、科目に応じて勉強時間の配分が必要です。
ここからは、科目ごとの試験内容や、それぞれに費やす勉強時間について解説します。
試験内容と勉強時間の割合
科目の紹介と勉強時間
(画像引用:資格の学校TAC)
公認会計士の試験には、短答式試験と論文式試験があります。
短答式試験は4科目、論文式試験は6科目です。
試験範囲となる科目や配点割合は以下のとおりです。
財務会計論(勉強時間の配分割合:5割)
財務会計論では、主に簿記の計算や、その背景の会計を基準とした内容を勉強します。
財務会計論のほかの科目と比べて範囲が広く、簿記の計算が中心となるため、短いスパンで復習する、問題集を解いてアウトプットするといった勉強が必要です。
また、財務会計論は、ほかの科目と比べて配点が高く設定されているため、勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約5割とされています。
管理会計論(勉強時間の配分割合:1割)
管理会計論では、原価の計算や業績管理会計、意思決定会計などを勉強します。
管理会計論は、財務会計論の次に対策の範囲が広く、原価計算の管理会計といったテクニカルな問題が中心になります。
そのため、解法の仕組みを理解したうえで、問題集を解いて理解を深めることが重要です。
論文式試験では、前述の財務会計論と管理会計論を合わせて、会計学として出題されています。
勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約1割とされています。
租税法(勉強時間の配分割合:1割)
租税法では、法人税法に関する計算や基礎理論、消費税法、所得税法などにおいて、構造的に正しく理解する必要があります。
監査証明の業務を行うために重要な科目で、さまざまな分野から基礎的な概念について出題される傾向があります。
基礎を理解したあとは、演習・復習を繰り返して計算式の解法を習得することが重要です。
勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約1割とされています。
企業法(勉強時間の配分割合:1割)
企業法では、「会社法」「金融商品取引法」において、組織の運営や活動におけるさまざまな法制度を勉強します。
この科目には法律が深く関係しているため、法律特有の表現を理解して、文章に慣れる勉強が必要です。
勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約1割とされています。
監査論(勉強時間の配分割合:1割)
監査論では、企業の監査に関する制度や基準などを勉強します。公認会計士は、企業の「財務諸表監査」を担う大切な資格です。
ほかの科目と比較すると学習範囲は狭いですが、監査の細かいルールを覚える必要があります。
ひっかけ問題が多いため、テキストを読むだけでなく、問題集を解いて出題の傾向になれることが重要です。
勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約1割とされています。
選択科目(勉強時間の配分割合:1割)
公認会計士の試験では、自由に選択できる試験科目があります。
以下の4つの選択科目があり、いずれも論文式試験となっています。
公認会計士試験の選択科目 |
・経営学 ・経済学 ・民法 ・統計学 |
自分の得意分野を選ぶことができますが、4科目のなかでもっとも勉強範囲が狭いのが「経営学」となっています。
合格者なかでも経営学を選択している人が多く、得意分野がない人は経営学を選択することが無難とされています。
勉強に費やす時間は、勉強時間の全体の約1割とされていますが、得意分野の場合、大学や大学院で専攻している場合には、勉強時間の割合を減らせることがあります。
公認会計士の試験方式
公認会計士の試験方式は、「短答式試験」「論文式試験」の二段階方式です。
短答式試験に合格した人だけが、その後の論文式試験を受験できます。
この2つの試験に合格することで、晴れて公認会計士になることができます。
ここからは、短答式試験・論文式試験のそれぞれの制度の仕組みと、試験時間・点数について解説します。
短答式試験
短答式試験は、例年12月と5月の年2回実施されています。
試験科目は4つあり、マークシート方式となっています。
公認会計士に必要な基本的な問題が幅広く出題され、体系的な理解ができているかを判断されます。
▮【科目別】短答式試験の時間・点数
科目 | 時間 | 配点 |
財務会計論 | 120分 | 200点 |
管理会計論 | 60分 | 100点 |
監査論 | 60分 | 100点 |
企業法 | 60分 | 100点 |
参考:公認会計士試験ガイド
論文式試験
論文式試験とは、論述方式の筆記試験です。
例年では、年に1回8月に実施されています。
試験科目は、財務会計論と管理会計論を合わせた「会計学」と、監査論・企業法・租税法・選択科目の合計5科目となっています。
論文式試験では、公認会計士に必要な学識や応用能力を判断するために、思考力・論述力・判断力などを測る問題が中心となっています。
▮【科目別】論文式試験の時間・点数
科目 | 時間 | 配点 |
会計学 (財務会計論・管理会計論) |
前半:120分 後半:180分 |
前半:100点 後半:200点 |
監査論 | 120分 | 100点 |
企業法 | 120分 | 100点 |
租税法 | 120分 | 100点 |
選択科目 | 120分 | 100点 |
参考:公認会計士試験ガイド
合格したからといって公認会計士になれるわけではない
公認会計士は、最難関の国家資格の一つです。
公認会計士として国から登録を受けるためには、試験に合格したあとに実務補習・実務従事・修了考査が必要になります。
ここからは、実務補習と修了考査について解説します。
実務補習
実務補習とは、公認会計士の試験に合格した人が受講する実務研修で、公認会計士の試験に合格した人が登録を受けるための要件の一つです。
実務研修を受けながら、修業年限である3年の間に単位を取得することが要件となっています。
この補習の目的は、公認会計士として必要になる技能の習得です。
3年間で受講するのは、監査や会計、税務、経営・ITや法規・職業倫理の5つです。
規定の単位を取得できた人のみ、その後の「修了考査」を受験できます。
実務従事
公認会計士の登録要件には、企業の財務や分析といった実務への従事を2年間以上行うことが含まれています。
試験に合格した後、監査法人に就職して実務経験を積むことが一般的です。
修了考査
監査法人などで実務経験を2年間以上積み、実務補習で必要となる単位を取得すると、最後に「修了考査」を受ける必要があります。
修了考査では、実務補習で勉強した監査や会計など5つの科目について、2日間の試験が実施されます。
修了考査の合格率は約7割となっており、不合格の場合は何度でも受験可能です。
この修了考査に合格すると、ついに公認会計士として活躍できるようになります。
公認会計士取得で税理士資格も手に入れやすくなる
公認会計士の資格を取得すると、新たに国家試験を受けなくても登録ができる資格があり、活躍の場が広がります。
公認会計士の資格を取得して得られる恩恵には、以下があります。
メリット
税理士試験の一部免除がある
公認会計士の資格を取得すると、税理士試験を受験しなくても登録することができます。
税理士に登録すれば、税務の代理や税務書類の作成など、幅広い専門業務に対応できるようになります。
ダブルライセンスにすると、サービスの付加価値が高まります。
仕事の幅が広がる
公認会計士になると、会計や財務に関する知識のほか、会社法といった法律に関する深い知識が身に付きます。
そのため、弁護士や行政書士などの資格を取得したい場合にも、身に付けた知識を活かせます。
このように、ほかの資格を取得する場合にも有利となるため、仕事の幅を広げたり、ステップアップや独立を目指したりしやすくなります。
世界で活躍したいならUSCPA
日本だけでなく世界に視野を広げたい場合、USCPAがおすすめです。
最後に、USCPAとは何なのか、勉強方法や合格率について解説します。
USCPA(米国公認会計士)とは
USCPAは、アメリカの各州が認定している公認会計士資格です。
日本の公認会計士は日本国内のみでの活動に制限されますが、USCPAの場合は、日本やアメリカ、アジア、南米やヨーロッパなど、世界中が活動地域となります。
USCPAは公認会計士よりも簡単
2019年度の試験では、日本に住んでいる人のUSCPAの平均科目合格率は43.1%で、3人に1人以上が合格しています。
同じ2019年度の国内における公認会計士試験の合格率は10.7%のため、USCPAのほうが資格を取得しやすいことがうかがえます。
USCPAの合格に必要な勉強時間は約1,000時間
USCPAに合格するために必要な勉強時間は、一般的に1,000時間とされています。
公認会計士の場合は、多ければ4,000時間以上の勉強時間が必要な場合もあることを踏まえると、公認会計士よりもUSCPAのほうが資格を取得しやすいと考えられます。
USCPAは絶対試験で、合格点は75%以上
USCPAは、一定の基準以上の点数であれば合格になる「絶対試験」が採用されています。
上位の人が順番に合格する「競争試験」ではないため、試験対策がしやすいといった特徴があります。
試験の合格点となる「75点以上」を取得すれば、ほかの受験者の得点にかかわらず試験に合格できます。
まとめ
今回は、公認会計士について、資格を取得するために必要な勉強時間や試験の内容などについて紹介しました。
公認会計士の資格は、試験科目が多く出題範囲も広いため、長期の勉強が必要です。
勉強をスタートする際は、試験日から逆算して勉強日数・時間を決めて、科目ごとの勉強時間を配分してから計画的に取り組むことが重要です。