中小企業診断士は、社会人がチャレンジできる最難関資格の1つです。
しかし、その仕事内容について具体的にイメージできる人は多くありません。
中小企業診断士の主な仕事内容は、中小企業の経営コンサルティングです。
中小企業診断協会の調査によれば、コンサルティング業務をメインとしている中小企業診断士は47%でした。
今回の記事では、中小企業診断士の仕事内容についてわかりやすくまとめました。
くわえて、中小企業診断士の種類や平均年収、活躍する場などについても解説します。
この記事の目次
中小企業診断士とは
中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対し助言、診断を行う専門家です。
日本国内で、経営コンサルタントとして唯一の国家資格になります。
最近では日本版MBAとも言われており、マネジメントスキルを身に付けてキャリアアップしたい人たちの間で人気の資格です。
中小企業の経営実態を調査、分析して幅広い専門知識で経営者にアドバイスを行うのが主な業務となります。
中小企業診断士には独立してコンサルティング業務を行う独立診断士と、企業に所属して会社内で活躍する企業内診断士の2種類があります。
中小企業診断士の具体的な仕事内容
中小企業診断士の具体的な仕事内容は以下の通りです。
1.経営コンサルティング
中小企業診断士の主な仕事は経営コンサルティングです。
中小企業が抱える経営課題について分析、診断して経営者に助言をします。
具体的には、「企業の経営資料の提出」「ヒアリング」「会社訪問」などによって、その企業の経営状態を分析します。
そこから経営課題を洗い出し、生産性向上やコスト削減のための改善策を報告書にまとめて提出。
企業が抱えている諸問題の解決や業績の向上、業務効率の改善などを提案するのが中小企業診断士の主な仕事です。
経営コンサルティングを効果的に行うには論理的思考と洞察力、コミュニケーション能力が必要です。
2.経営改善計画書・経営診断書の作成
経営改善計画書や経営診断書を作るのも中小企業診断士の仕事です。
経営改善計画書とは、経営上の課題を見つけて改善するための計画書です。
金融機関への新規借入依頼や、返済のリスケジュール依頼に経営改善計画書が必要となります。
産業廃棄物収集運搬業の許可を取るためには、経営診断書が必要とされます。
経営診断書は、企業の経営状態を診断して担保するための書類です。
3.補助金申請代行・補助
中小企業の補助金申請代行や補助を行う中小企業診断士もいます。
政府や自治体に補助金を申請する場合、事業計画書を提出しなければなりません。
補助金を支給されるには、政府や自治体の審査を通過することが必要です。
そのため、中小企業診断士に事業計画書の作成や、補助金申請の代行を依頼します。
4.公的業務
中小企業診断士の中には、中小企業基盤整備機構や商工会議所で働く人もいます。
中小企業基盤整備機構とは、中小企業への政策の実施や成長のサポートを行う公的機関です。
公務員だけでは中小企業をサポートしきれないため、中小企業診断士の活躍の場となっています。
商工会議所は、中小企業や小規模事業者を対象とした支援機関であり特別民間法人です。
商工会議所から中小企業診断士には、以下のような仕事が依頼されます。
- 経営指導者として巡回指導・窓口指導を行う
- 専門家派遣業の専門家として依頼がある
- 商工会議所でセミナーを行う
5.セミナーやウェビナーでの講演
中小企業診断士の一部は、仕事の一環としてセミナーや講演活動を行っています。
中小企業診断士が、セミナーやウェビナーを引き受けるメリットは以下の通りです。
- 知名度がアップして次の仕事につながる
- セミナーでアウトプットする内容を勉強できる
- セミナーで講演した分野の専門家として認知してもらえる
中小企業診断協会の調査(企業内診断士の実態調査 P16)によれば、独立診断士の平均的な講演・教育訓練業務の日数は、年間20日以上だとのことです。
6.書籍の執筆
書籍の執筆を行う中小企業診断士も少なくありません。自分が持っている専門知識を書籍にしたり、Webサイトで記事にしたりしています。
先ほどの調査によれば、執筆業務の年間平均は独立診断士で20日ほどです。
中小企業診断士の種類
中小企業診断士には、以下の2種類があります。
- 独立診断士
- 企業内診断士
独立診断士は独立開業して自分の事務所を構えており、中小企業と契約してコンサルティング業務を行います。
企業内診断士は、中小企業診断士の資格を持ちながら企業に勤務し、会社の業務を行いながらコンサルティング業務を行います。
それぞれの割合は独立診断士は43.6%で、企業内診断士が47.3%です。
中小企業診断士の総数が2万7,000人強ですので、独立診断士が1万1,000人強、企業内診断士が約1万2,000人になります。
中小企業診断士の平均年収
中小企業診断士の平均年収は約739万円で、会社員の平均年収である461万円を大きく上回っています。
中小企業診断協会によるとコンサルティング、講演・教育訓練、診断業務などが高額報酬でした。
たとえば、コンサルティングは1日平均9万7,000円の報酬となります。
講演・教育訓練は13万円とかなりの高額であることがわかります。
ただし、これらの業務はコンスタントに入ってくるものではありませんので注意が必要です。
しかし、一般的な会社員と比較して中小企業診断士の平均年収はかなり高いことがわかります。
中小企業診断士になる6つのメリット
中小企業診断士になるメリットは以下の6つです。
①経営コンサルティングの信頼性アップ
中小企業診断士の資格を取れば、経営コンサルティングをするときの信頼性アップにつながります。
経営コンサルティングは資格がなくてもできます。
しかし、中小企業診断士は唯一の経営コンサルティングの国家資格です。
そのため、資格を取得すればクライアントからの信頼性が大きく向上するでしょう。
②キャリアの幅が広がる
中小企業診断士の知識はキャリアアップにつながります。
中小企業診断士は、社会人がチャレンジできる資格の中では最難関と言われています。
理由は、幅広い経営の知識が求められるからです。
たとえば、中小企業診断士として必要な知識には以下のようなものがあります。
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・中小企業政策
資格を取得して手に入れば経営の知識は、企業のさまざまな場面で活躍します。
そのため、自身のキャリアアップやキャリアの幅につながるのです。
③年収の向上が期待できる
中小企業診断士の平均年収は739万円で、会社員の平均年収に比べて非常に高いことが特徴です。
さらに、企業内診断士としてノウハウを蓄積し、独立開業すれば大きな年収アップが期待できます。
そのほかにも、会社内の資格手当で年収がアップする可能性もあります。
資格手当の相場は1ヶ月1万円~3万円ですので、資格手当のある会社なら年に12万円~36万円ほどの年収アップが可能です。
また、中小企業診断士の資格を活かして副業をすることもできるでしょう。
④企業の業績向上に貢献
中小企業診断士として活躍すれば、企業の業績向上に貢献したという満足感を得られるでしょう。
日本国内の企業の99.7%が中小企業であり、中小企業は雇用の7割を担っています。
中小企業は日本の産業の土台であり、経済を下支えしています。
これらの中小企業にとって中小企業診断士は頼れる存在です。
1社で実績を上げれば、その実績をもとに信頼性がアップしてほかの依頼にもつながるかもしれません。
くわえて、実績を上げれば経営者や従業員から感謝されることもあります。
業績向上へ貢献することによって、満足感や充足感を得られるのは中小企業診断士の醍醐味です。
⑤名刺に肩書きを入れられる
企業内診断士として、名刺に肩書きを入れられるかもしれません。
名刺に中小企業診断士として肩書きが入れられるメリットは、以下の通りです。
- 珍しい肩書きなので覚えてもらいやすい
- 信頼性がアップする
- 自己紹介をしやすい
中小企業診断士は日本に2万7,000人、企業内診断士は1万2,000人しかいません。
そのため、非常に珍しく覚えてもらいやすいでしょう。
また、中小企業診断士は社会人がチャレンジする中で最難関の資格です。
中小企業診断士の資格取得は、社会的に真面目で向上心のある人として受け止められます。
珍しく、そして信用度の高い資格ですので、名刺交換のときに話のネタにすることも可能です。
⑥将来性がある
中小企業診断士には大きな将来性があります。
日本の企業の99.7%が中小企業であり、中小企業診断士を求める潜在ニーズは膨大です。
実際に経済界からは、中小企業診断士の資格をもっと簡単に取得できるようにするという提案もされています。
2020年10月6日の第14回経済諮問会議において、サントリー・ホールディングスの新浪剛史社長は以下のように発言しました。
そして、経営人材の育成も非常に重要。
たとえば、中小企業診断士について、非常に意味のある資格だと思うが、提出資料に添付している通り、1次試験では7科目すべてに合格しないと試験に通過できないなど、大変難易度が高いものとなっている。
中堅・中小企業の経営を担うことのできる人材の裾野を広げていくためにも、たとえば、中小企業診断士の科目にデジタルを入れるとともに、すべての科目を合格しなくとも、税理士のようにひとつひとつの科目で合格しても何らかの位置付けを付与することを考えてみてはどうか。
また、中小企業診断士は将来、AIに取って代わられない職業でもあります。
野村総研は2015年に、10年~20年後には日本国内の職業の49%がAIに代替されると発表しました。
しかし、職業リストの中で中小企業診断士の代替可能性は0.2%でした。
中小企業診断士はこれからもニーズが高く、AIに取って代わられる心配もない将来性の高い資格です。
中小企業診断士として活躍できる勤務先
中小企業診断士として活躍できる勤務先は以下の通りです。
コンサルティング会社
コンサルティング会社やコンサルタント業務は、中小企業診断士の大きな活躍の場です。
コンサルティング会社の平均年収は473万円で、日本の会社員の平均年収である461万円より高い傾向にあります。
しかし、中小企業診断協会の調査によれば、中小企業診断士の3.4%しかコンサルティング会社に勤務していません。
割合が低いのには、いくつかの理由があります。
- 母数に独立診断士も含んでいるから
- 独立診断士(コンサルタント事務所)とコンサルティング会社勤務を分けて調査しているから
母数が企業内診断士だけなら、コンサルティング会社勤務は8%程度と高い割合です。
また、コンサルティングが主な仕事である独立診断士まで含めると、コンサルタント業務に関わる中小企業診断士は全体の47%にも上ります。
中小企業診断士は、その知識を活用してコンサルティング会社で活躍しています。
商工会議所
商工会議所も中小企業診断士の大きな活躍の場です。
中小企業診断士のうち、約5%の人が商工会議所などの公的機関に勤務しています。
企業内診断士に限れば、約10%の人が公的機関を活躍の場としています。
商工会議所は小規模事業者や中小企業の支援を目的とした機関で、経営相談や融資、共済といった総合的な活動を実施。
中小企業診断士は、主に以下の3つの仕事で活躍します。
- 経営指導員として巡回指導・窓口指導
- 専門家派遣業の専門家として登録
- 商工会議所のセミナーを請け負う
士業の事務所
中小企業診断士の中には、士業の事務所で働く人たちもいます。
公認会計士や税理士といった士業は経営に深く関わる分野です。
そのため、中小企業診断士の有資格者は重宝されます。
そのほかにも、独立診断士が税理士や公認会計士と連携することも模索されています。
連携しつつ中小企業支援を行うことによって、さらに中小企業診断士の活躍の場が増えるかもしれません。
独立
独立して活躍している中小企業診断士は非常に多いです。
独立診断士の割合は43.6%となっており、4割強の中小企業診断士が独立して生計を立てています。
また、企業内診断士の3割が独立開業を予定しているという調査結果もあります。
中小企業診断士として独立し、顧問契約を結ぶと顧問料は月額で平均14万円です。
顧問先の平均数は7社ですので、顧問契約だけで年収1,000万円を超えることも夢ではありません。
企業のコーポレート部門
経営の知識や理論をよく知る中小企業診断士なら、企業のコーポレート部門で活躍することも可能です。
コーポレート部門とは、会社全体の事業を管理する以下のような部門です。
- 総務
- 人事
- 経理
- 法務
- 経営企画や広報
- 情報IT
これらは企業の中枢とも言える部門ですので、やりがいのある仕事を任せられることが多いでしょう。
中小企業診断士になるために必要な勉強時間
中小企業診断士になるために必要な勉強時間は、800時間~1,000時間です。
1年以内での短期合格を目指すなら、1週間あたり20時間ほどの勉強時間が必要です。
1日にすると2時間~3時間の勉強時間となります。
1年以内に合格した人は合格者の27%でした。
2年~3年以内に合格する人も合わせると約7割になりますので、1年~3年で合格するのを目安として学習スケジュールを組むとよいでしょう。
なお、中小企業診断士の合格率は4%~7%です。
社会人がチャレンジできる資格の中では最難関ですので、しっかりと継続して勉強していくことが重要です。
中小企業診断士の受験資格
中小企業診断士の一次試験に、受験資格はありません。
学歴 | 中卒でも受けられます |
---|---|
実務経験 | 実務経験は一切不要です |
年齢 | 何歳でも受けられます |
受験資格ではありませんが、科目免除という制度があります。
科目免除とは、定められた資格を有する人は一定の科目の試験を免除されるという制度です。
資格 | 免除科目 |
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大学等の経済学の教授、准教授・旧助教授(通算3年以上)、経済学博士 | ・経済学・経済政策 |
公認会計士、公認会計士試験合格者など | ・経済学・経済政策 ・財務・会計 |
不動産鑑定士、不動産鑑定士試験合格者、不動産鑑定士補など | ・経済学・経済政策 |
会計士補、会計士補となる有資格者 | ・財務・会計 |
税理士など | ・財務・会計 |
弁護士、司法試験合格者など | ・財務・会計 ・経営法務 |
技術士(情報工学部門登録者に限る)、情報工学部門に係る技術士となる資格を有する者 | ・経営情報システム |
ITストラテジスト、システムアーキテクト、応用情報技術者、システムアナリスト アプリケーションエンジニア、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ ソフトウェア開発技術者、第一種情報処理技術者試験、情報処理システム監査 特種情報処理技術者の合格者 |
・経営情報システム |
そのほかにも、科目合格による科目免除も行われています。
一次試験で科目に合格すると翌年、翌々年の2年間に限り科目免除を利用することが可能です。
試験から登録までの流れ
一次試験に合格し、中小企業診断士として登録されるまでには2通りの方法があります。
1つめは二次試験を受ける方法で、以下のような流れです。
- 二次試験を受験
- 実務補習・実務従事を15日間
- 中小企業診断士として登録される
2つめの方法は、中小企業基盤整備機構か登録養成機関が実施する養成課程を修了することです。
養成課程のポイントは以下のようになります。
- 二次試験を受けずに中小企業診断士になれる
- 養成課程の費用は200万円前後
- 機関によって費用、期間は変わるが6ヶ月~2年
- 養成課程を経ることによって、中小企業診断士の横のつながりができる
中小企業診断士の仕事内容は主に経営コンサルティング!
中小企業診断士の主な仕事内容は経営コンサルティングです。
独立診断士として経営コンサルティングをする人が多いですが、コンサルティング会社や商工会議所で活躍する中小企業診断士も大勢います。
補助的にセミナーや執筆活動を行う人も多いようです。
中小企業診断士の仕事は、日本国内企業の99.7%を占める中小企業をサポートすること。
実績を上げれば契約先の企業からも感謝され、日本社会にとっても有益であるため充実感がある仕事です。
充実感のある仕事をしたいなら、中小企業診断士を目指してみましょう。