連載「企業が資格取得支援制度を導入するメリット」、前回は、「資格取得支援制度」の導入時に注意すべき点やポイント、助成金の例について解説しました。
第3回の今回は、資格取得支援制度を福利厚生に追加して良かった例・悪かった例を紹介します。
「こんなうれしい変化があった」「設計時にこうしておけば良かった」など、実体験を盛り込んだリアルな成功談・失敗談とともにお届け。実例をもとに、導入時の具体的なイメージを膨らませましょう。
目次
要反省!「資格取得支援制度」導入時の失敗例
まずは、せっかく資格取得支援制度を導入したものの、反省が必要となってしまった例から見ていきましょう。
総務・経理担当者へ問い合わせが殺到
資格取得支援制度の導入後に多発するのが、総務や経理担当者への問い合わせです。
以前私が勤めていた会社では、せっかく福利厚生に資格取得支援制度があるにもかかわらず、社員はおろか各部門長にも情報があまり浸透していませんでした。
部門長がこの制度を把握していないため総務担当者への申請方法の問い合わせが頻発したり、経理担当者が申請者へ受験後の申請はしたのか確認したりと、皆がお互いストレスに感じていたようです。
私が勤めていた会社のケースだと資格取得支援制度の利用時の申請に加え、民間資格・公的資格・国家資格といった資格試験の受験後に、結果報告が必要でした。
結果報告がされないと、受講費用の振込や合格奨励金、資格手当といった手続きに入れないからです。
ですが資格取得支援制度の利用時のみ申請し、すべて終わった気になってしまう社員は意外と多いもの。結果報告の申請を行わなかったことにより、いつまで経っても支援費用が振り込まれず、トラブルになったこともありました。
支給金額や申請可能回数に上限を設けず、予算をひっ迫
資格取得支援制度においては、社員1人当たりの年間支給金額や申請できる回数に上限を設けるのが一般的です。
また資格の取得にかかる費用(受講料や教材費、民間資格・公的資格・国家資格などの受験費用)を支給する場合には「合格時のみ支給」に限定するのがおすすめ。
資格が取得できなくても費用を援助してもらえるとなると、資格取得の勉強に真剣に取り組まない社員が増えかねません。
何度も申請・支給を繰り返すと担当者の工数がかかるうえ、費用もかさんでしまいます。
あまり予算をかけられない場合は、受講料や受験費用は負担しない代わりに、合格奨励金のみを支給するのもよいでしょう。
この場合は合格奨励金を50,000~100,000円程度の魅力的な金額に設定するのがおすすめです。
また、資格手当の金額はあまり高めにしないことがポイント。資格手当は毎月発生するものなので、高額にしてしまうとそれだけで予算をひっ迫してしまいます。
もちろん資格の難易度によって異なりますが、資格手当は月額1,000~10,000円程度が一般的です。
下表は建設業における資格手当対象資格と資格手当の支給額です。技術士や不動産鑑定士のような国家資格であっても、資格手当は月額10,000円となっています。
資格名・級 | 手当額 |
技術士、不動産鑑定士 | 10,000円/月 |
構造設計一級建築士、設備設計一級建築士 | 9,000円/月 |
一級建築士 | 7,000円/月 |
建築構造士、建築設備士 一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士 一級管工事施工管理技士、一級電気工事施工管理技士 宅地建物取引士、社会保険労務士、建設業経理士1級 計量士、労働安全コンサルタント |
5,000円/月 |
第一種情報処理技術者 | 3,000円/月 |
二級建築士、造園士 | 2,000円/月 |
二級建築施工管理技士、二級土木施工管理技士 建設業経理士2級、第二種情報処理技術者 |
1,000円/月 |
【インタビュー】資格取得支援制度導入にまつわる失敗談
ここで、A社の総務担当者B子さんをお招きして、資格取得支援制度を福利厚生に加えた際の実際の失敗談をインタビューしてみたいと思います。
B子さん、よろしくお願いいたします!
よろしくお願いいたします。
失敗例① 職務ごとの推奨資格を設定しておらず業務に活かせていない
実際に、どのような点が「失敗したな~」と思われましたか?
せっかく資格を取得したのに、業務に活かせていない社員が出てしまったことですね。どうやら、興味はあるけど業務では直接使わない資格を取得したようです。
なるほど。業務に直接関係のない資格を取得しても、活用できないと意味がないですもんね。その費用まで会社が負担するわけですから、コストも膨らんでしまいますし。
そうなんです。例えば経理など、技術職でない社員が開発言語の資格を取得したところで、実務で使うことはほぼないですから。
その意欲は尊敬に値しますけどね。
はい。私だったらわざわざ勉強したくないですもん(笑)
この失敗をもとに、現在は「職務ごとの推奨資格」を設定しました。
例えばどのようなものですか?
IT担当者や開発部門では、インフラ系やセキュリティ、開発言語系の資格を推奨資格としました。経理財務部門なら簿記やFP、ビジネス会計検定、給与計算実務能力検定といった資格です。
具体的に資格名が列挙されていると、どの資格を取ったらいいかイメージが沸いていいですね!
そうですね。資格の選定に迷ったら「実務を行ううえでその人にとって有益になる資格かどうか?」を判断軸にするようにしています。
すばらしい判断基準だと思います!
失敗例② 資格取得支援制度を利用した社員がすぐに辞めた
ほかに何か失敗談はありますか?
つい先日のことなのですが、資格取得支援制度を利用してとある社員が資格を取得しました。でも、合格奨励金を受け取ってすぐにその社員が辞めてしまったんです。
な、なんと…。
さすがにショックというか衝撃でしたね。
このような事態を防ぐには、どうしたらよかったのでしょうか?返金規定を設けるとかですかね?
返金規定を設けることは労働基準法第16条「賠償予定の禁止」に抵触するので、できないんですよ。
予防策としては、支給する費用を「貸与」という形で社員に支給し、返済義務を負わせる規定にすることです。返還義務は一定期間就業することで免除されるような内容にするといいですよ。
なるほどー!さっそく規定を見直します!
企業によって様々な失敗談も出てくると思います。トライアンドエラーで、よりブラッシュアップしていくことが大切ですね。
資格取得支援制度を導入したケースで良かった例
次に、資格取得支援制度を導入後、良い結果が出た例の紹介です。
会社が求める人物像を社員に周知できた
資格取得支援制度の対象となる資格や、取得を推奨する民間資格・公的資格・国家資格をピックアップすることで「会社は社員に何を求めているのか」を伝えられます。
「推奨資格」と明記されていれば、社員はまず、推奨資格から取得しようと思うものです。企業として「この知識や資格だけは持っていてほしい」というものを推奨資格にすれば、社員の知識の底上げやレベルの一定化が図れます。
また、推奨資格に会社の方向性を示すものを加えるのもおすすめです。
例えば情報セキュリティ系の資格やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)関連など、時代の流れに合ったものを盛り込むと良いでしょう。
社員の業務理解が深まり、エンゲージメントが向上した
第1回「資格取得支援制度のメリット」でも触れましたが、仕事をしながら資格の勉強をするということは、予習と復習が同時に行えるということ。
資格の勉強により「知識」の部分が習得できます。さらに日々の業務を通じ「実務経験」を得られるので、効率がいいのです。
するとどのような副次的効果があるでしょうか?
学んだことを実践するので、社員の業務理解が深まります。知識は実際に使ってみて初めて定着するもの。また、一生懸命勉強した内容が仕事で活かせていると実感できたら、より一層やる気が出ますよね。
学ぶ→実践するというサイクルによって業務の理解が深まり、仕事への興味も増すため、結果として社員のエンゲージメント向上につながります。
【インタビュー】資格取得支援制度導入にまつわる成功談
ここで再び、A社の総務担当者B子さんをお招きして、今度は資格取得支援制度導入にまつわる成功談をインタビューしてみたいと思います。
成功例① 部内の雰囲気が良くなった
さきほどは失敗談をうかがいました。気を取り直して、今度は資格取得支援制度を導入したケースで良かった例を教えてください。
はい。一番良かったなと思うことは、資格取得を目指す社員の影響で、部内の雰囲気が明るくなったことです。
それはいい影響ですね!具体的にはどんな風に変わりましたか?
資格の勉強をすることが、同資格の取得を目指す社員同士の会話のネタになったり、合格者をみんなでお祝いしたりということがありました。部だけではなく、フロア全体の雰囲気が良くなったように感じます。
また、同部内では同じ資格の取得を目指す同僚や、すでに保有している先輩社員も多いです。そのため資格取得へのモチベーションが保ちやすいようで、合格率も高いです。
資格の取得が自信となって、さらに上位資格の取得にも意欲的になれそうですね。
まさにその通りで、部内の雰囲気に後押しされて、目標の資格取得後も学習意欲が継続しているようなのでうれしいです。
成功例② 「うちの会社は社員を大事にしている」と感じてもらえた
ほかには何か、資格取得支援制度を導入して良かったなと思うエピソードはありますか?
はい。社員から「うちの会社は社員を大事にしていると思う」と言ってもらえたことです。
おお!それはうれしいですね。
はい!資格取得にかかる費用面のサポートや、合格奨励金の支給を実際に経験してみて感じたそうです。また、資格手当は実質毎月の給与アップにもなるので、ご家族を持つ社員からは特に好評です。
先月その社員にインタビューをして、資格取得支援制度を利用した際の体験談を語ってもらいました。その体験談を会社HPに掲載したところ、かなり反響が良かったんです。
それは社内からの反響ですか?
社内ももちろんですが、うちの会社への応募者が増えました。採用面接の際に候補者から資格取得支援制度について聞かれたり、「体験談の記事を読んで、いい会社だなと思ったので応募しました」と言ってもらえたりすることも多くて。
人材育成に意欲的な会社は、やはり魅力的に映るのですね。
そのようです。私は制度立案から携わってきたので、こういった前向きなフィードバックをもらえるとやって良かったな、と実感しますね。
資格取得支援制度の導入が、やりがいにもつながったいい事例ですね!B子さん、本日はありがとうございました!
こちらこそありがとうございました。
今回は資格取得支援制度導入のリアルな例をお届けしましたが、いかがでしたか。
人手不足が深刻な日本では、優秀な人材の獲得と、社員の帰属意識を高めることが必須です。資格取得支援制度の導入が、その追い風になってくれることでしょう。
次回は連載最終回。取得を奨励する民間資格・公的資格・国家資格を、業種ごとにまとめました。奨励資格の選定にお悩みのご担当者様必見です。どうぞお楽しみに。
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