この連載「法律初学者なら必見!法律の読み方」では、行政書士有資格者であり法律を作成する側である国会議員政策担当秘書の有資格者である筆者が、初心者でもわかるように法律用語の基礎について図解を含めて解説いたします。
前回は「法律」と「法」の違い、またその関連用語について解説しました。
連載第2回の今回は、「時」や「とき」など、法律の条文に使われる紛らわしい法律用語の使い方を解説します。
正しく法律用語を理解し条文を読み取ることは、試験に合格するためにも、実際に働く際にも必須のスキルです。しっかり覚えていきましょう!
目次
「時」と「とき」の違い
法律系国家資格試験の合格を目指す場合、法律の条文を読み解けるかはとても重要です。しかし法律の条文には、初心者にとって意味の受け取り方を間違えやすい法律用語が多く出てきます。
そのため初心者は、覚える・知る以外にも「読み取り方」という技術を身に付ける必要があるのです。今回は、この例をいくつか見ていきましょう。
まずは表題にもなっている「時」と「とき」です。
「時」は文字通り「時間」を表します。
これに対して「とき」は「その場合には」という意味を表します。
時…時間
とき…場合
例えば、民法第3条の2は以下の通り規定しています。
前半部分に「法律行為の当事者が意思表示をした時に」という表現があり、「時」という言葉が使われています。これは、その時間、つまりその時点でという意味を表しています。
そのためこの条文の前半部分は、「法律行為の当事者が意思表示をした時点で」という意味になります。
さらに、民法第3条の2の後半部分には「意思能力を有しなかったとき」と規定されています。ここの「とき」は、「場合」の意味となります。
つまり「当事者が意思能力を持っていない場合には、その法律行為は無効です」という条文なのです。
全体を見てみると、「法律行為の当事者が意思表示をした時点で、意思能力を有しなかった場合には、その法律行為は無効となります」という規定だとなります。
なお読者の中には、この条文にある「意思能力」とか「法律行為」って何?と思われた方も多いかもしれませんが、それらの言葉の意味はこれから学んでいくので、今はわからなくても問題ないです。
今は、法律の条文は「時」と「とき」を明確に使いわけているんだという点を覚えてください。
また今回「民法第3条の2」について見ていきましたが、「の2」って何だ?と思った方も多いかもしれませんね。なぜこの表現があるのかについては、ここで解説しておきましょう。
例えば法律を改正するとき、「第3条」と「第4条」の間に新しい条文を新設する必要があったとします。そのとき「第4条」を「第5条」に繰り下げ、以下条文番号を1つずつ下げるという方法もあります。
しかし法改正があるたびに条文の番号が変わってしまうと、条文を読む側も番号を常に覚え直さないといけません。それに、ついこないだまで4条だったものが5条になっている…なんてことがあると、使う方も覚える方も混乱してしまいますよね。
そうならないように、新設条文を差し込む場合に使われるようになったのが「の2」という条文番号なのです。
「第3条の2」は「第3条」のおまけという意味ではなく、「第3条」とは関係ない独立した条文なのですね。
「及び」と「並びに」の違い
次に解説するのは「及び」と「並びに」という言葉で、法律用語ではこの2つの言葉も明確に使いわけます。
「及び」と「並びに」はどちらも「と」とか「and」の意味として使われますが、条件によって使い方が変わるので注意が必要です。
単純に2つのものを合わせて話をする場合には、「及び」が使われます。
例えば、「A及びB」のような表現です。
しかし合わせる対象が3つ以上になり、さらに合わせるもののランクが異なる場合には「並びに」を使います。そして「並びに」は「及び」よりも大きなくくりを表します。
ちょっと文章ではわかりづらいので、ここで図解を入れて解説していきましょう。
例えば「A及びB並びにC」という表現があった場合、下の図解のようにまず「AとB」を合わせて、それに「C」を合わせるという読み取り方になります。
ここで図解したルールを知らないと、解釈方法がいくつか分かれる条文もあるので注意しましょう。
「若しくは」と「又は」の違い
「若しくは」と「又は」は、どちらも「どれかを選ぶ」という「or」の意味で使われます。
そして「若しくは」と「又は」とも、先に解説した「及び」「並びに」と同様に、いずれか選ぶものの位置づけに応じて使い分けます。
「若しくは」と「又は」も、「若しくは」が最も小さいくくりで、さらに大きい選択肢に「又は」が入ります。こちらも図解で見ていきましょう。
「推定する」と「みなす」の違い
「推定する」も「みなす」も、「あることを、それとは違うこととして取り扱う」という場合を示します。
しかし「推定する」と「みなす」は、反証(反論)を許すか、という点について大きな違いがあります。
「推定する」は、例えば事実が不明であるとき、法令が一定の事実の状態にあるものとして取扱うものです。
しかし「事実は不明ではない。ここに証拠がある」などと発言する利害関係者が出てきた場合、「推定」はされなくなります。推定しようとした事実と異なることが示されたためです。
これに対して「みなす」は、一切の反証(反論)を許さないという点で「推定する」と大きく異なります。
例えば、あるみなされた行為があるとして、その内容と現実は異なるという証拠があったとしても、一度見なされたら「みなし」が撤回されることはありません。
推定は、反論がされない限り「とりあえず〇〇と取り扱うこと」で、みなすは、反論がされても「常に〇〇と取り扱うこと」と覚えておきましょう。
「善意」と「悪意」の違い
一般的に「善意」は「いいことをしようという意思」、「悪意」は「悪事をする意思」という意味で使われています。しかし法律上の「善意」は「知らないこと」を表し、「悪意」は「知っていること」を表します。
例えば、民法第94条には「(第1項)相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。(第2項)前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」という規定があり、この第2項の部分に「善意の第三者」という表現があります。
「善意」は法律上「知らないこと」なので、民法第94条第2項は全体として「相手方とした虚偽表示は無効であるが、そのことを知らない第三者に対しては無効であると主張できない」ということになります。
「直ちに」、「速やか」と「遅滞なく」の違い
法律用語には「直ちに」、「遅滞なく」と「速やか」という表現もあります。これらは時間を表す言葉で、「直ちに」>「速やか」>「遅滞なく」の順に急がなければならない意味となります。
例えば「直ちに行け」、「速やかに行け」、「遅滞なく行け」とあった場合、「直ちに行け」が一番急げという意味になります。
おさらい:一緒に考えてみよう!
さて最後は、ここまでの内容をおさらいするための問題をやってみましょう!
次のカッコに入るのは、「とき」と「時」のどちらかになるかを答えなさい。
① 小学生の( )、転校が多かった。
② 合格者の累計が5人になった( )、そのことをもっと宣伝に使おう。
③ 善意の者の( )、法律上保護されると書かれている。
④ 昼になった( )、その裁判は終了した。
【回答】
① 時 ② とき ③ とき ④ 時
【解説】
本文で見た通り、時間を表すのが「時」で、その場合にはという仮定で話をする場合には「とき」となります。
①の「小学生の( )、転校が多かった。」については、「小学生であった時、転校が多かった。」としたいので「時」が正解です。
②の「合格者の累計が5人になった( )」は、文脈から「合格者が累計5人になった場合」としたいので「とき」が入ります。
③の「善意の者の( )」も、文脈から「善意の者の場合」となるので「とき」が入ります。
④の「昼になった( )」は、文脈から「昼になった時点」となるので「時」が入ります。
普段何気なく使っている表現も、法律で使うとなるときっちりとした使い分けがあることがわかっていただけたのではないでしょうか。
今の段階で初心者の方がすべてを完璧に覚える必要はありません。
資格勉強をする前に、ちょっとした単語にも使いわけがあると知っておくと理解がスムーズになるので、ざっくりと覚えておいていただければと思います。
連載「法律初学者なら必見!法律の読み方」2回目は、法律用語の「時」と「とき」、「推定する」と「みなす」のような、初心者には使いわけが難しい表現について解説していきました。
特に行政書士試験を受ける方は、法律に関して自身で思考する記述式試験もあるので、このような法律用語の意味の違いを押さえ、適切に書けるようにしておきましょう。
その中でも今回の図解で示した接続詞の使い方は重要ですので、ぜひ覚えておいてくださいね。
法律用語をざっくり理解できたら、次は法律の条文の読み方について見ていきましょう。
次回は、条文を読む技法について図解入りでわかりやすく解説していきます。
法律の条文は一部の用語の意味を知ったからといって、簡単に理解できるようになるわけではありませんので、次回の技法も必見です。お楽しみに!
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