簿記3級は、一般的に経理・財務を担当する人に必要な資格と思われがちですが、実際はビジネスパーソンに求められる基礎的な知識を身に付けられる資格です。そのため、職種に関わらず、簿記3級の知識を評価してくれる企業は多いといえます。
もちろん、経理の業務にも直結する知識が多く含まれているため、中小企業や個人商店の経理事務を担当される方にもってこいの資格です。
今回は、そんな簿記3級とはどんな資格なのか、独学でも合格できるのか、この資格を取るとどのように役立つのかについて、日商簿記3級と全商簿記3級の違いも合わせて、押さえるべきポイントをご紹介します。
目次
そもそも簿記とは何か?
「簿記」は、簡単に説明すると、「会社の経営活動を記録・計算・整理して、経営成績と財政状態を明らかにする」技術です。
簿記の由来が一説によると「帳簿に記録する」とあるように、具体的には会社の取引(お金の出し入れ)を帳簿に記録して、その帳簿から、会社の経営・財政状態を報告する資料(財務諸表)を作成することを指します。
この一連の流れで、作成する財務諸表の知識を持つということは、自分の会社や取引先、あるいは個人の投資先の会社における経営成績・財政状態がわかるようになるということです。
なお、簿記は会社の経営の基本であり、ルールはどの会社でも基本的に変わることがありません。
簿記がつぶしがきく資格であるといわれたり、社会人の常識といわれたりするのはこのためです。
簿記検定の日商簿記と全商簿記の違いとは?
簿記の検定にはいくつかありますが、有名なのは日商簿記と全商簿記です。
日商簿記と全商簿記では主催団体が異なり、検定の目的も異なります。
全商簿記とは
全商簿記(簿記実務検定)は、全国商業高等学校協会が行う検定で、その名のとおり高等学校で使用される教科書を元に出題されます。
学校での学習成果やスキルアップのための検定で、商業高校生が対象ですが一般の方の受験も可能です。
検定試験は3級、2級、1級(会計)、1級(原価計算)の4種類で、難易度も日商簿記とは異なり、日商簿記の2級が全商簿記の1級に相当すると言われています。
試験は年2回実施されます。受験者数は、2023年度(第96回・第97回合計)では約16万人でした。
試験内容は、2級と3級が個人企業メインで、1級が株式会社をメインとした内容です。
3級だけを切り取ってみると、資産、負債、純資産、収益、費用の要素についての簿記の基礎、現金や掛け売買など取引の記帳、伝票の作成、減価償却を含めた決算整理が主な構成です。
簿記とは何か、どのように記帳や整理をしていくのかという点について簡単に網羅した、やや初歩的な内容となります。
日商簿記とは
日商簿記は、日本商工会議所が行う社会人や大学生向けの検定で、上位資格の難易度は全商簿記よりも上がります。
初級から1級まであり、初級は入門レベルの商業簿記、原価計算初級、3級(商業簿記)、2級(商業簿記、工業簿記)、1級(商業簿記、工業簿記、会計学、原価計算)となります。
試験は、会場試験は年3回実施、ネット試験(※)は原則随時実施されています。
※ 紙の問題用紙・解答用紙を使わず、テストセンターのパソコン上で受験する形式
2023年4月〜2024年3月の期間で、日商簿記検定全体(1級、2級、3級、初級)の受験者数は約50万人でした。
日商簿記は1級まで見ると、会計学も含んだ全商簿記よりも一歩進んだ内容になっており、実戦的な簿記の処理だけでなく、税務上の処理や法令も内容に含まれます。
1級に合格できれば税理士の受験資格を得られるため、難易度は高いです。
3級については、簿記の基礎を網羅する点では全商簿記3級と同じですが、全商簿記2級で出題される収益や費用の決算処理が含まれるほか、資本の摂理や増資、消費税などの税金に関する問題が含まれている点が異なります。
同じ3級でも、全商簿記3級より日商簿記3級の方が難易度は高く、出題範囲も税金等を含めた実践的なものです。
全商簿記と日商簿記のどちらを受けるべきかといえば、商業高校の学生でなければ、日商簿記がよいでしょう。
これは、企業では、全商簿記より日商簿記を重視することが多いためです。
前述のように、全商簿記と比べて、日商簿記では税金など実践に合った内容が3級から出題範囲に設定されていることも理由の1つといえます。
また、昇進や昇格、資格手当の対象となっている場合もありますので、キャリアアップを狙うなら日商簿記の取得がおすすめです。
日商簿記3級と日商簿記2級の試験内容の違いって?
それでは、日商簿記の簿記3級とはどんな資格なのでしょうか。ここでは、日商簿記の3級と2級の違いについてご紹介します。
日商簿記3級は、簿記の基礎、特に商業簿記の基礎を学びます。
商業簿記とは、商品を仕入れて販売するという基本的な業務に関わる簿記のこと。一般的に「簿記」といえば商業簿記を指すことが多いです。
勉強の内容でいうと、まず仕訳(「取引」を「勘定科目」に分類)を学び、仕訳した内容を元に「総勘定元帳」(日々の取引を勘定科目ごとにまとめた帳簿)を作成し、総勘定元帳を元に財務諸表(「貸借対照表」「損益計算書」)という書類を作成することを学びます。
日商簿記3級では現金預金や商品、固定資産、収益と費用など、主に個人企業で頻繁に処理が発生するような取引が網羅されているのが特徴です。
これに加え、税金や決算整理仕訳、決算における試算表の作成なども範囲に含まれるため、3級の出題範囲を学習すれば、簿記がひととおりできるようになっています。
また、2級とは異なり基礎をメインとしているため、簿記の基本原理も出題されやすいです。
これが日商簿記2級となると、さらに発展した商業簿記の内容となります。
具体的には、仕訳として貸倒引当金の個別評価と一括評価、商品有高の総平均法、固定資産の割賦購入や圧縮記帳、外貨建て取引、消費税の税込み方式などの内容が加わり、実戦面に磨きがかかります。
さらに、決算においても財務諸表が勘定式から報告式に変わり、企業で知識を活用できるような内容となっているのが特徴です。
そして、日商簿記2級では、2級と3級の大きな違いである、工業簿記が出題内容に入ってきます。
工業簿記とは、工場や製作所などの製造業に関わる簿記で、材料から製品までの製造活動の記録、生産にかかる原価を算出する原価計算の分野です。
社内の製造活動の記録であり、商業簿記とは異なり、費用のうち原価に注目し、材料や設備、人件費などを含め原価がどれほどかかったのかを計算する内容となります。
日商簿記2級では、このような原価計算にはどのような意義があるのかを含め、材料や労務費、経費の計算など原価計算の基礎的な内容が出題されます。
日商簿記3級の出題内容と出題傾向
日商簿記3級の試験は3問より構成されています。
3問と書きましたが、問題が全部で3問出るというわけではありません。「問」と呼ばれますが一般的な呼び名としては、3章や3項目と言った方が理解しやすいかもしれません。紛らわしい呼び方ですが、簿記の試験では問題構成の大枠を「問」と表現します。
日商簿記3級の近年の出題内容は下記の通りです。
第1問|仕訳問題:45点(3点×15問)
第1問は、簿記の基本である仕訳問題です。
仕訳問題は借方・貸方の両方に当てはまる勘定科目を記号で選び、金額を数字で記入します。
【例題】
電子記録債務 ¥ 720,000 が決済され、当座預金口座から引き落とされた。
ア.電子記録債権 イ.普通預金 ウ.支払手形 エ.当座預金 オ.電子記録債務 カ.買掛金
【答え】
(借方)オ 720,000 /(貸方)エ 720,000
仕訳は簿記の基本知識ですが、試験では受験生を惑わせる選択肢も多く、仕訳の意味を正確に理解することが重要です。
第2問|補助簿や勘定記入の問題:20点
第2問は、基本的には以下のような帳簿記入の問題が多く出題される傾向にあります。
上の図は勘定記入の一例です。
第2問では取引事例から空欄にあてはまる適切な金額や語句を答える問題がよく出題されますが、苦手とする受験生は多く、後回しにしがちな内容です。
仕訳だけではなく、前期と当期の取引から当期の勘定記入を行ったり、損益の振替仕訳を行ったりするため、問題の形式に慣れていないと難しく感じます。
ただ、取引事例から仕訳ができれば答えられる部分もありますので、第2問も仕訳の理解が重要です。
第3問|精算表や試算表、損益計算書、貸借対照表などを作成する問題:35点
第3問は、精算表や試算表の作成問題が主に出題されます。特に押さえたいのは「決算整理仕訳」です。
決算整理仕訳のポイントは10個あります。
1 現金過不足
2 当座借越
3 貯蔵品
4 貸倒引当金
5 固定資産の減価償却
6 消費税
7 前払い・前受けと未払い・未収(費用と収益)
8 売上原価の算定
9 法人税
10 当期の純損失
これらの決算時特有の処理の仕方(仕訳)が理解できていると、第3問で高得点を獲得する可能性が高まります。
いずれにせよ、日商簿記3級は仕訳を理解することに重点が置かれます。
日商簿記3級の試験時間は60分で、70%以上の正答で合格です。
試験全体の構成を見ても、多岐に渡る問題が出題されるのがわかるかと思います。特定の分野に特化せず、万遍なく知識を習得することを心がけましょう。
日商簿記3級の出題傾向について紹介しましたが、あくまで傾向であり変更される可能性もあります。
現法令に基づき問題が作成されるため、内容変更や改訂が適宜行われているためです。
また、現代のビジネススタイルに沿った内容に柔軟に対応するという意味でも内容変更されることがあります。
このような出題内容の変更は数年に1度実施されていますので、受験する年の内容に合わせた適切な学習が大切です。
日商簿記3級は独学で合格できる!効率的な学習スケジュールとは?
日商簿記3級は独学で合格可能な試験なのでしょうか。答えは「可能」です!
簿記3級の合格率は30~40%、勉強時間は50~100時間で、およそ2~3ヵ月が勉強期間の目安です。1日1~2時間程度(休日に1~3時間)の勉強を効率よくできれば、1~2ヵ月の勉強期間で合格を目指せるといえるでしょう。
とはいえ、学業やお仕事をしながら学習時間を捻出するのは大変です。
そこで、時間やお金をかけず、独学で簿記3級に合格する効率的な学習方法を紹介します。
簿記3級を独学で合格するための教材
簿記3級の独学に必要な教材はテキストと動画。
学習の初期ではこれらの教材をフル活用して、効率的に学習しましょう。
市販テキストは数多くありますが、受験生自身が見やすく、使いやすいテキストにするとよいです。
市販テキストは「教科書」と「問題集」に分けられていることが多いですが、勉強を始めた当初は、「教科書」のテキストを読み込み、基本的な知識を身に付けましょう。
また、現在、世の中には数多くの動画コンテンツがあり、特にYoutubeには無料の有益な動画がたくさんあります。こうした無料動画は独学の強い味方ですね。簿記3級の解説動画も掲載されており、わかりにくい分野は解説動画を視聴して理解するのが、時間的にも費用的にも効率的。
特にYoutubeで公開されている「ふくしままさゆき」さんの解説動画は、「なぜこの仕訳になるのか?」を、理論を交えて解説してくれるので、とてもわかりやすいです。
簿記3級の効率的な学習スケジュール
では、独学で学習を進める際の効率的なスケジュールをご紹介します。
① 初期(40~50時間)
学習の初期は、基本的な知識の習得に力を入れます。市販テキストの読み込み、解説動画の視聴を3周したり、テキスト内の問題をたくさん解いたりしていきましょう。
簿記3級でもっとも配点が高いのは、第1問の仕訳問題45点。
仕訳問題は基本から応用まで出題されますが、初学者でも満点の取得が可能です。第1問で45点満点を獲得すれば、残り55点中25点以上で合格点に達します。
仕訳は簿記試験合格のカギであり、簿記の基本中の基本。学習の初期では、完璧に仕訳をマスターすることを目指しましょう。
② 中期(30~40時間)
テキストと動画解説で基本的な知識を身に付けたら、過去問や問題集などの試験問題に近いレベルの応用問題へと移行し、試験の問題形式に慣れていきましょう。
中盤以降の学習は「頻出問題」と「苦手問題」に重点を置きます。
たくさんの仕訳問題を解く過程の中で、「頻出問題」と「苦手問題」の2つがわかってきます。
頻出問題は必ず解けるように何度も繰り返して解き方を覚え、苦手問題はテキストを読み返したり、解説動画を視聴したりして、放置せずに理解し直すようにしましょう。
さらに、理解できている問題・得意な問題に対する学習時間を減らし、減らした分の時間を頻出問題や苦手問題の対策に充てると、効率的に学習ができます。
③ 後期(10~20時間)
試験前には過去問や模試の問題を解いて、試験特有の言い回しや時間感覚に慣れましょう。
模試の問題は無料ダウンロードできるものがWeb上にあります。これらも独学の味方ですので、大いに活用しましょう。
過去問や模試の問題は、期間を空けて3~5回分を何度も解きます。次第に、最初は40点だった点数が少しずつ合格点に近づいたり、60分以内の時間で解けるようになったりします。第1問の仕訳問題は、問題を見て反射的に解答できるようにしたいですね。
過去問や模試の問題を解く際は解ける問題から解くのが基本ですが、「第1問→第3問→第2問」の順番で解くことをおすすめします。理由は配点と難易度、仕訳の重要性です。
第1問は配点が45点と高く、難易度も高くはありません。仕訳をマスターしていれば45点満点が取れます。
第3問も仕訳ができれば解ける問題が多いです。35点中25点以上を取れれば、第1問と第3問で合格点。
こうした観点からも、第1問の仕訳問題、第3問の精算表や試算表などの問題に重点を置いて学習すると効率がよいでしょう。
簿記3級の必要性とは?仕事でどう活きるの?
簿記は企業のすべての経済活動の基本といえるため、簿記資格取得者のニーズは常に一定してあります。
簿記3級の資格は、全商簿記、日商簿記含め経理の基礎にあたり、就職、転職の際に面接や履歴書でも評価のポイントになるでしょう。比較的難易度が低いとはいわれますが、就職、転職では有利に働く傾向があります。
経理関連の書類の読み取りができ財務や基本知識が身に付くため、経理業務ができるだけでなく、数字から取引先の経営状況を読めるようになります。
また、ロジカルシンキングにもつながるため、経理担当者以外でも様々な場面でその知識が活かせるでしょう。
なお、現在はコンピューター会計が普及し簿記の処理がやりやすくなりましたが、それでも簿記の資格に一定のニーズがあるのは、コンピューターが算出した財務諸表を読み解き、そこから課題を見つけられる人が求められているからです。
営業職であれば取引先の経営状況を適切に判断し、その企業との取引が問題ないかなど、交渉の判断材料とすることができます。
さらには、簿記は税理士や公認会計士の登竜門ともなっています。税理士や公認会計士を雇う会計事務所の場合、簿記2級が求められることが多いですが、3級はその基礎となる資格です。
一般企業の経理職にまで範囲を広げると簿記3級までを求めることも多くありますので、3級でも募集の資格要件を満たすことは充分できます。
会計系資格のメジャーでありどのような職種・業界でも活用できる簿記3級の資格。独学で勉強することも可能な資格ですので、ビジネスパーソンとして取得しておいて損はないでしょう。
数字が苦手でも簿記3級は受かるの?
数字が苦手な人でも簿記3級に合格できます!
まず電卓を使うため、計算が苦手でも問題はありません。
電卓も奥が深く、あまり知られていない便利機能が色々ありますが、簿記に必要とされるのは基本的な四則計算のため、足し算・引き算・掛け算・割り算ができれば十分です。他に高度な数式を使うような場面はありません。
簿記はよく仕訳がすべてといわれますが、企業の経済活動・取引の内容を簡潔に記録するためにお金の増減を、「左(借方)」と「右(貸方)」に増減する要素(勘定科目)と金額ごとに記録する作業が基本です。
基本的な仕訳は3級の肝であり、簿記の大原則。よく理解して実践と応用をこなせるようになることが重要になります。
また、試験会場では電卓を使えるため、自分で計算をすることは少ないです。ポイントは、いかに短時間で問題を解けるかということ。これはどれだけ過去問を多く解いたかで成果が大きく変わってきますので、できるだけ過去問を多く解きましょう。
過去問や模試などの応用問題で解けなかった問題はテキストや解説動画で復習し、理解し直す習慣を身に付けます。
簿記3級は数字が強い人が理解できるものではなく、じっくり取り組み、簿記の基本的な仕組みを理解することで、数字が苦手な人でも習得できる資格です。計算が苦手で抵抗のある人も、勉強を続けるうちに使い慣れてくるので、試験の際も心配する必要はないでしょう。
すべての社会人・ビジネスに関わる簿記の知識。
職種に関わらず評価する企業も多く、経理や担当業務でなくともその知識が活かされる場面は多くあります。
簿記3級の内容を勉強すれば数字から企業の経営状況が判断できるため、営業職や企業との取引に関わる職には欠かせません。
日商簿記3級であれば、株式会社会計の内容も含め知識を蓄えることができます。
簿記3級は比較的取得しやすいといわれる資格ですので、スキルアップやビジネスパーソンとしてのレベルアップのためにもぜひ学び、取得してみてはいかがでしょうか。
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