ビジネスパーソンならば身に付けたい知識の1つ、簿記。その知識の必要度は、事務的職業の方であればより一層高くなります。
企業で経理事務職を募集する際は、たいてい簿記資格の有無が問われます。採用時の優遇条件としている企業もあります。ビジネスの基礎として取得を目指す人が多い資格が、簿記検定です。
しかし簿記特有の用語やルールは、初めて簿記を学ぶ人にはとっつきにくいものです。
そんな簿記の世界を、元資格学校の簿記講師である筆者が、全5回の連載でわかりやすく解説します。
初めて学ぶ簿記の歴史、現代簿記の父とは?
書店などで売っている簿記のテキストには、通常、簿記の歴史は書かれていません。簿記の知識、受験テクニックを教えている本がほとんどです。
しかし初めて簿記を学ぶ人にとって、簿記の歴史を知ることは大変有意義なことです。ちょっとした自慢ができるビジネス知識にもなります。
それでは、簿記の歴史を少し覗いてみましょう。
簿記は、イタリア人の数学者ルカ・パチョーリという人が著書の中で述べたものが、現代の我々が使う簿記のルーツといわれています。
簿記の物語は大航海時代まで遡る
昔々、幾多の商人が様々な商品を求めて世界中の海を渡った、「大航海時代」があったということはご存知の方も多いかと思います。
その時代は1つの航海を単位として仕事をし、航海が終了するとともに人の集まりは解散していました。
航海の準備をし、航海先で物を仕入れ、自国に帰って商売をして利益を上げて解散するといった具合です。
それから時代が進むにつれ、様々な企業体が現れ、企業経営は安定し継続的に仕事をするようになります。
すると、1つの仕事のたびに帳簿を終わらせるのではなく、取引を連続して記録する帳簿の方が便利になりました。
ここで指摘しておきたいのは、大航海時代であっても、企業が継続する時代においても、商人にとっては「お店にお金や物がどれだけあるか、取引でどのくらい儲かっているのかが関心事である」ということです。
それを記録したものが「帳簿」であり、一定のルールに従って帳簿に記入することを略して「簿記」と呼ぶようになりました。
このルールをまとめ上げたのが、前述したルカ・パチョーリです。
初めて簿記を学ぶ方の第一関門「取引」とは?
ここまで、「取引」という言葉を何度か使いました。
実は、初めて簿記を学ぶ方にとっての泣きどころが、「簿記上の取引」と「日常的に使う取引」という言葉の分類なのです。
筆者の私も、初めて簿記を学ぶにあたり、ここでつまずいた記憶があります。
なお取引を分類するにあたっては、簿記の5要素である「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」を説明しなければなりません。
そして「簿記上の取引」とは、この簿記の5要素に変動をもたらすものをいいます。
ですが現時点では、「資産はあると嬉しいもの」「負債はあると悲しいもの」というように、大まかにとらえていただいて構いません。
習うより慣れよ、ということで例題を見てみましょう。
なお簿記検定の問題文は下記の例題の様に出題されます。少々堅苦しいですが、徐々に慣れていただければ大丈夫です。
また、簿記上の取引に該当したものは「仕訳(しわけ)」という処理を行わなければいけませんが、仕訳の説明は次回以降の記事で紹介します。
まずは「取引」に注目しましょう。
【例題1】
東京商店は、埼玉商店から「商品」10,000円分を仕入れ、代金は「現金」で支払った。
上記が「簿記上の取引」に該当するかどうかの考え方は、以下の通りです。
【例題1の考え方】
商品を仕入れたことによって、東京商店の商品が増えました(商品という資産が増えたので嬉しいですよね)。
対価として、東京商店は現金10,000円を支払いました(現金という資産がなくなったので悲しいですよね)。
以上のことから、例題1は
簿記の5要素のうちの資産が増減するため、「簿記上の取引」に該当する
こととなります。
なお、ここで出てきた「商品」や「現金」といったものは「勘定科目(かんじょうかもく)」と呼ばれ、簿記を初めて学ぶ方が1つずつ覚えていくことになるものです。
もう1つ例題を見てみましょう。
【例題2】
東京商店は、取引先である大阪商店と、1ヵ月後に行われる商談会で新商品についての商談をする約束をした。
上記が「簿記上の取引」に該当するかどうかの考え方は、以下の通りです。
【例題2の考え方】
確かに商談を取り付けたという点では、営業で日常的に使う「取引」には該当するでしょう。
しかし、この段階ではまだ東京商店の簿記の5要素には何の変動もありません。
つまり例題2は
「営業上の取引」には該当しますが「簿記上の取引」には該当しない
こととなります。
繰り返しになりますが、「簿記上の取引」とは、簿記の5要素(資産、負債、純資産、収益、費用)の増減を伴うものです。
商談の約束をしただけでは、簿記の5要素に変動がないことはわかっていただけるかと思います。
いかがでしたか。 今回の記事は簿記の歴史ということにも触れましたので、初めて簿記を学習する方にとっては、少し難しかったかもしれませんね。
しかし、この簿記上の取引かどうかを、先の例題を使って判断できるようになれば、「ちょっとは簿記を知っているな」というレベルになるのです。
次回は、今回名前の紹介だけで終わった「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」について、具体例を交えてお伝えします。
簿記の上達の基本は興味を持つことです。連載1回目である今回で簿記の世界に少しでも興味を持っていただいたなら、次回以降の内容はとても身近に感じられると思いますよ。
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