法律系資格取得を目指す方のための連載「知っておきたい法の基礎(全5回)」、最終回の今回は「法令用語」についてお伝えします。
行政書士試験では、基礎法学として出題されます。
それ以外の法律系資格の学習においても、法令用語の読み方をマスターしなければ条文の読み込みができなくなってしまいます。
そういう意味では法令用語は、基礎法学として出題されないから学ぶ必要がない、というものではなく、法律の学習をするにあたって基礎的なものという認識をすべきです。
行政書士試験を受験するしないに関わらず、しっかり把握するようにしましょう。
「又は」「若しくは」
法律の条文で、複数のものを併合的につなぐ方法として、「又は」「若しくは」という2種類の接続詞を使います。
この2つは使い方が違うので注意をしましょう。
「又は」で接続されている場合には、複数のものは同一のレベルで使います。
「若しくは」で接続されている場合には、「又は」でつながっているものと違うレベルでつなぎます。
行政書士の試験科目である会社法の157条1項2号は、
株式会社は、前条第1項の規定による決定に従い株式を取得しようとするとき(筆者注:自己株式の買い受け)は、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。
(略)二 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法(略)
としています。
この2号の文章構造は、
(引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額)又は(算定方法)
という風に分解することができます。
「みなす」「推定する」
次に、ある事項が存在したものとして扱われるための表現方法として、「みなす」「推定する」という表現が使われます。
「みなす」の例としては、民法31条が、
前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
としています。
失踪宣告といわれる民法の規定になるのですが、行方不明になって死亡したかどうかすらわからない場合に、裁判所の審理を経て行方不明者が死亡したという扱いにする規定があります。
失踪してしまった人がいつ死亡したという評価を法的にするかを決めなければならないのですが、失踪しているため死亡した事実がわかりませんので、この条文で一定の期間の経過と関連付けています。
一方「推定する」の例としては、民法32条の2が、
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
としています。
この条文は、例えば航空機事故で父と子が死亡した場合、その孫が相続人になるかが、父が先に死亡した場合と子が先に死亡した場合で異なるのですが、その立証が難しいことから規定されたものです。
この「みなす」と「推定する」の違いは、別の証拠を出した時にその効果が覆るかどうかで分かれます。
「みなす」の場合には、反対の証拠を出しても結論は変わらないのに対して、「推定する」の場合には別の証拠を出せれば、そちらに従うとされています。
「善意」「悪意」
善意というのは見た目からは「良いこころ」を指し、悪意は「悪いこころ」という風に見えなくもありません。
しかしこれは外国語をそのまま日本語になおしたために、このような翻訳があてられたのであって、法律用語では違う使い方をします。
「善意」は、ある事実を知らないことをいいます。
例えば民法94条2項は
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
と規定します。
前項の規定というのは、94条1項が規定する、示しあわせて取引した外観を作った場合を指します。
民法では「善意の第三者」という表現がたくさんの項目で出てくることになりますが、これは第三者がある事柄について「知らない」という状態を指すと把握しておきましょう。
つまり、示しあわせに関与していない第三者に対しては主張できるということになります。
一方で、ある事実について知っていることを「悪意」と呼んでいます。
例えば民法190条は
「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。」
と規定します。
ここでいう悪意とは、他人物の占有者が、自分に権限がないことを知っていた場合でなければならないと解釈されます。
連載「知っておきたい法の基礎(全5回)」、最終回である今回は、行政書士試験でも基礎法学として出題される法令用語についてお伝えしました。
言葉の意味を正確に理解していないと、適用がされるかどうかすらわからない、ということにもなりかねません。
行政書士試験受験生は、この基礎法学に属する用語の問題について、理解をしていない人が多いです。
ですので、勉強をしてみようと思ったあなたは今からでも遅くありません。他の法律系資格を受ける方でも、条文などを正確に読むために必要な知識であるという視点で勉強するようにしてください。
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