社会保険労務士(以下、社労士)試験の合格率は平均で5%程度。
合格率が5%を切る国家試験というと、非常に難易度が高いようにも思えます。
ですが、最低限度の知識を確保できて、全体構造をマスターできれば、社労士試験は数字で見るほど難しい試験ではありません。
連載「勤務社労士の魅力」、最終回の今回は、社労士の資格を取得するために必要な勉強時間や期間、社会人が働きながら社労士試験に合格するためのコツについてお話ししたいと思います。
目次
社労士試験の受験資格について
社労士になるためには、まず、社労士試験に合格する必要があります。
初めに確認すべきは受験資格です。社労士試験は誰でも受けられるわけではありません。
4年制大学において一般教養の単位を取得している(もしくは科目を問わず62単位以上取得している)か、短期大学または高等専門学校を卒業していること等の受験資格が必要です。
高卒の方の場合、それだけでは社労士試験を受験することはできません。
ですが、受験資格の1つに「行政書士試験等の国家試験に合格していること」があるので、まず他の国家資格を取得してから社労士試験を受験するという方法があります。
また、
・社労士法人や弁護士法人等での業務補助を行っていた経験が通算して3年以上ある方
・一般の企業において雇用保険や労働保険関連もしくは年金や健康保険など社会保険関連の実務に携わった経験が3年以上ある方
等についても、受験資格が認められます。
このように、大学に進学されなかった方でも受験資格が認められます。ご自分に受験資格があるかわからない方は、社会保険労務士会連合会試験センターへ事前に問い合わせてみるとよいでしょう。
社労士試験に合格するために必要な勉強時間は?
社労士試験に合格するために必要な勉強時間は、一般的に800~1,000時間と言われています。
もちろん、これには、個人差があるでしょうし、大学の法学部で法律を学んだ方や、社労士事務所や企業の総務部である程度の知識を有している方は、これよりも短い勉強時間で合格できる場合もあるでしょう。
仮に勉強時間が1,000時間必要とした場合、1日平均2~3時間程度の勉強時間が取れる方であれば、1年間で1,000時間の勉強時間が確保できる計算です。
ですので、合格レベルに達するまでに3年も4年も勉強しなければならない、というような試験ではないことがわかります。
社労士の試験の合格率は、ここ数年は年度によって非常にばらつきはありますが、概ね5%程度です。
合格率だけを見ると、非常に難易度の高い試験に見えますが、必要な勉強時間さえ確保できれば、一発合格することが十分可能な試験であるといえるでしょう。
社会人が働きながら社労士試験に合格するためのコツ
先に述べたように、合格率だけを見ると、司法試験や公認会計士試験と同等の難易度のようにも見える社労士試験ですが、合格者の7割程度が会社員や公務員であり、社会人として仕事をしながら受験された方が多いことがわかります。
社会人にとっては勉強時間を確保すること自体が大変ですから、受験者の中には、十分な勉強時間を確保できないまま受験している人も多く含まれていると考えられます。
つまり、社労士試験は合格率が低いとはいっても、必要な勉強時間を確保して、基本的な知識を習得できていさえすれば、合格することが司法試験や公認会計士ほど困難な試験というわけではないのです。
そうはいっても、社労士試験は、8つもの法律の範囲から出題され、分野毎の基準点をクリアしないと合格できないので、幅広い知識が求められます。そのため、ある程度の勉強時間は必須です。
ただ、普段お仕事をされている社会人の方が、継続してある程度の勉強時間を確保することはなかなか難しいので、いかに効率的に勉強をするかということが重要となります。
実際に社労士になってから必要とされる知識は多岐にわたります。しかし試験は、社労士になるための手段であると割り切って勉強することが必要です。
そのためには過去問題集が重要となります。どのような分野が良く問われているのか、引っかけのポイントは何かを効率的にマスターするには、実際の試験問題を何度も解いてみることが有用だからです。
また、スマホやタブレットの進化により、電車の中でテキストを広げなくても、モバイル端末の画面を見て勉強することができるようになりましたから、通勤時間等のスキマ時間をうまく利用することで勉強時間を確保することも大切です。
家に帰って机に向かって勉強する時間を常に確保するのは大変です。
それよりも、通勤中や休憩時間にスマホでネット検索をしていた時間を、毎日5分でも10分でも勉強時間に回しましょう。
そのような勉強ができている方は比較的早期に合格できている、というのが私の印象です。
試験に合格してから勤務社労士として働くまで
晴れて社労士試験に合格してから、勤務社労士として働くには、まず社会保険労務士会連合会への登録を行う必要があります。
(前回の記事でお伝えした通り、社労士と名乗るためには社労士会連合会への登録が必要です)
ただ、社労士試験に合格すればすぐに登録できるというわけではありません。
試験合格後すぐに登録できるのは、2年以上の実務経験(具体的には労働社会保険諸法令に関する実務経験)※がある方に限られます。
※総務・労務関連の業務を行っている方はこの実務経験を満たしている可能性がありますので、社労士会連合会に問い合わせてみてください
実務経験がない方は、社労士会連合会が行う「労働社会保険諸法令関係事務指定講習」という講習を受けることになります。
この講習は、通信指導課程(4ヶ月間)と面接指導課程(4日間)からなっており、その両方を受講しなければなりません。
通信指導課程は、課題を提出して添削指導を受ける方法で受講します。面接指導課程は、講義形式で行われます。講習の費用は、75,600円(平成29年度の場合)です。
講習を修了すると社労士として登録することが可能となります。この登録の際に、開業社労士として登録するか勤務社労士として登録するかを選択します。
なお、登録の方法には、開業と勤務のほかに、「その他」という登録方法もあります。
これは、試験に合格して講習も修了したが、まだ自分で開業しているわけでもなく、また、どこかの企業に所属しているわけでもない方などが登録する方法です。
登録をすると、社労士会への会費等が発生しますが、開業の場合は会費が高いので、開業するまでの間に登録だけしておきたいといった方が、会費の安い「その他」を選択する場合があります。
なお、勤務社労士として登録する場合、勤務先の承諾は必要ありません。
ただ社労士として登録をすると、社労士会の研修等の行事に参加しなければならないといった理由で仕事を休むことがでてきますから、勤務先に報告しておいた方がいいでしょう。
社労士試験合格への近道とは
働きながら国家試験のための勉強をするというのは、そんなに簡単なことではないかもしれませんが、社労士試験は、きちんと勉強しさえすれば、かなりの確率で合格することができる試験であると思います。
ご自分が社労士になりたいと思ったきっかけや、社労士になった後にやりたいこと、社労士としてのご自身のキャリアやビジョンを具体的にイメージしながら、モチベーションを維持する。
試験はそのための手段としてある程度割り切って、合格に必要な最低限の知識をスキマ時間も使って効率的に吸収する(そのために問題集中心の勉強をする)。
これが、私が考える合格への近道です。
スキルアップ・キャリアアップの手段として、あなたもぜひ勤務社労士を目指してみませんか?
参考サイト:
全国社会保険労務士会連合会試験センター「過去10年の推移と合格者の年齢階層別・職業別・男女別割合」
(http://www.sharosi-siken.or.jp/pdf/05/info_03_suii.pdf)
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