皆さん、こんにちは。オンスクの知的財産管理技能検定3級講座を担当いたしました、株式会社パテントインベストメント代表取締役の草野です。
「特許をもっと身近に!特許の意味や活かし方」第5回の今回は特許になり得るもの、なり得ないもの(特許法上の文言を用いると、特許を受けることができないもの、特許を受けることができないもの)についてご説明していきます。
1.はじめに
これまで特許の概要や要件などについてお伝えしましたが、抽象的な部分も多くあまりイメージが湧かなかったかもしれません。
そのため今回は、特許になり得るもの、なり得ないものについて、具体的なイメージを持っていただくために複数の具体例を元にお話ししていきます。
2.特許になり得るもの、なり得ないものの具体例
ここでは6つの具体例を挙げていきましょう。皆さんも最初はぜひ、特許になり得るかどうか考えていただければと思います。
①料理の方法
料理の方法は、特許になり得ると思いますか?
答えは、
なり得ます!
料理にも熱、水、力といった、自然原理が大きく関係するので、技術的アイデアに該当するものがたくさん存在します。
例えば、ラーメンの作り方でいえば、麺の茹で方、スープの煮込み方、素材の組み合わせ方などによって、味はもちろんのこと、麺の硬さ、塩分量、スープの色などが変わってきますので、独自の技術的アイデアとなり得るのです。
ただし、ある程度の再現性があって、特許の書類を見れば誰でも実施できるような客観的で明確な料理の方法でなければ発明には該当せず、特許になり得ません。
例えば、スープの作り方の方法において、特許を取得しようとする内容に技能に該当するような記載があった場合です。
スープを煮込む時間を決める際に、時間で決めるのではなく、「程良い色合いになるまで煮込む」という経験がものをいう職人技のようなものは、個人スキルに大きく影響するので、技術ではなく技能になります。
要するに個人の感覚的な要素が入ってしまうとそれは技術ではありません。
料理の方法であっても技術的なアイデアでなくてはならないのです。
②パーマやカットの方法
パーマやカットの方法は、特許になり得るかどうかというと…
なり得ます!
これも料理の方法と同じように、誰でもできるような客観的で明確な方法を特許の書類に記載する必要があります。
例えば、「耳から◯◯センチの髪の毛を刈り上げ…」とか、「髪の毛にパーマ液を付け、△△分以上時間を置き…」のように明確な記載をする必要があります。
逆に、「後頭部付近の髪の毛をすきばさみで程よい毛量になるように切り…」のような曖昧な表現では、個人の技能になってしまうので発明には該当せず、特許になり得ません。
③ビジネスモデル
これは、
特許になり得ます!
昔、ビジネスモデル特許というものがかなり話題になったことがありました。そして最近また、ビジネスモデル特許の波が来ています。
ただ、ビジネスモデルについてもなり得る場合となり得ない場合にわかれてきます。
上記2つと同じように、技術的な要素が十分にないと特許になりません。
例えば、収益の分配のルール、従業員が行う顧客情報の管理の手順を定めたものなど、人為的な取決めに該当してしまうようなものは特許にはなりません。
一方で、「収益分配のルールに従って機能するシステム、顧客情報を決められたパターンによって管理するプログラム」のようにビジネスモデルをIT技術によって実行するものは特許になり得ます。
また、有名なビジネスモデル特許として、いきなりステーキによるステーキの提供方法についての特許があります。
これは、ステーキの注文を受けてからお客さんにステーキが届くまでの流れが特許になっています。
一見、ただの作業内容に見えますが、特許として認められているというのは非常に大きな強みです。
④設計図
これは特許に…
なり得ません!
何故なら設計図は図面だから。
特許は文章で表すものなので、図面の状態では特許にはならないのです。
逆に言えば、設計図に書かれた内容を文章に書きおこせば特許になり得ます。
また、設計図は特許にはなりませんが、著作権による保護は受けられますよ。
そのため、第三者が設計図を勝手に複製して使った場合などは著作権侵害となり得ます。
なお、著作権は申請手続きをしなくても権利が発生するので、設計図を作成したのは自分であるという証拠さえ残しておけば大丈夫です。
⑤既存の化学薬品を混ぜたもの
これは特許に…
なり得ます!
基本的に既存のものを組み合わせただけでは特許にならないのですが、組み合わせたことでその分野の専門家でも予測できない異質な効果がある場合等は、特許として認められることがあるんです。
特に化学の分野の場合は原子・分子のレベルでの様々な反応が起きるので、既存の物質同士を混ぜ合わせても、まったく異質のものができることがあります。
イメージ的には、殺菌効果のある物質Aと、溶解効果のある物質Bを特定の割合で混ぜた時に化学肥料となる物質Cができるといった具合です。
これはあくまで仮想事例ですが、このように物質AにもBにもない新たな効果を発揮し、かつ、それを予測できないような物質ができた場合には特許になる可能性が十分にあります。
⑥人体の一部
これは、さすがに特許にはなり得ません。
…と言いたいところですが、実はなり得るかどうかわかりません!
ここでいう人体の一部とは、主に加工した後の髪の毛、まつげ、爪などをいいます。
パーマの方法やネイルの方法などについての特許はすでに世の中にたくさんありますが、パーマやネイルを施した後の髪の毛や爪自体についての特許はありません。
私自身で調べたのに加え、特許庁にも問い合わせましたが、過去に前例がないと言われました。
ただ、前例がなくてもそれだけが理由で人体の一部が特許として認められない、ということはないとも言っていました。
すなわち、特許としての要件を満たせば人体の一部であっても特許として認められるということです。
実際、特許法の法律条文や審査基準などを見ても、人体の一部は特許として認められないとはどこにも書いてありません。
そのため、私は人体の一部であっても特許になる可能性は十分にあると考えています。
また、何故人体の一部の特許を取ることを検討するかというと、パーマやネイルなどの方法のみで特許を取得すると、その方法にしか特許の効力が及ばないからです。
どういうことかというと、例えば、パーマの方法Aとパーマの方法Bがあり、AとBのどちらを実践しても同じ結果のパーマになるとします。
Aについて特許を取得した場合に独占保護できるのはAのみです。
他人がBを使用していたとしても権利侵害を主張することはできません。
一方で、パーマの方法ではなく、パーマがかかった後の髪の毛について特許を取得できた場合は、他人がA、Bのいずれの方法を実践したとしても同じ結果としてのパーマになるので、権利侵害を主張できます。
すなわち、結果物である髪の毛について特許を取得すれば、プロセスに関係無くパーマがかかった髪の毛を独占・保護できるので、非常に強力な特許となります。
実は私のクライアントでまつ毛のパーマやエクステについて特許出願をした方がいるのですが、パーマとエクステの方法に加えて、パーマとエクステがかかった後のまつ毛についての特許も出願しました。
余計な費用がかからないように1つの書類に方法とまつ毛の内容をまとめたので失敗してもリスクはないですが、うまくいけば広い権利範囲の特許を取得することができます。
初の試みなので、結果がどうなるか非常に楽しみです!
もし結果が出たらクライアントから許可を得た上でお伝えしたいと思います。
3.最後に
以上、特許になり得るもの、なり得ないものについてご説明しました。
上記の6つのパターンを知ることで、ある程度は特許になり得るか・なり得ないかの判断ができるかと思いますので、ぜひご参考にしていただけたら幸いです。
それでは今回の記事の内容は以上となります。次回は、対象の技術分野に関する特許情報を視覚化してまとめた「特許マップ」についてお伝えします。
お読みいただきありがとうございました!
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