こんにちは。オンスク行政書士講座、担当の藍澤です。
連載「時事問題で学ぶ行政書士試験」では、ニュースの中から行政書士受験生に役立つものを取り上げ、学習のポイントを解説していきます。今回は、行政書士試験のメイン科目である「行政法」からです。
時事ネタですので、もちろん行政書士受験生以外の方でも興味を持っていただけると思います。よろしければぜひご覧になってください。
本日取り上げる時事問題は「ゴミ屋敷(行政代執行)」です。
2018年8月28日、神奈川県横須賀市は、大量のゴミをため込んでいた50代男性の自宅、いわゆる「ゴミ屋敷」に対して、「行政代執行」を行いました。
市は、「横須賀市不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例」に基づき、男性の氏名と住所を公表し、ゴミを運び出すよう戒告していましたが、改善されず「代執行」に踏みきりました。
男性は、集積場からゴミを持ち帰って集めていたようで、代執行によって回収されたゴミの量は1,710kgもありました。また、かかった費用は60万円だそうです。
行政書士受験生 注目ポイント
「行政代執行」は「行政強制」の1つです。「行政強制」とは、「行政上の義務を履行しない人に対し、将来に向けて義務の履行を強制する」という、とても強いものです。
例えば、「税金を納めない人から、税金を強制的に徴収する」ことも行政強制の1つです。
「義務の不履行を前提としていること」、「将来に向けて必要な状態を実現しようとすること」が、「即時強制」や「行政罰」との違いです。
その中でも、「代執行」とは、「他人が代わってすることができる義務(代替的作為義務)がされない場合に、行政庁や第三者が代わってその義務をし、費用を義務者から徴収すること」です。
今回も、ゴミを撤去するという義務(代替的作為義務)が履行されないので、横須賀市(行政庁)が代わって撤去し、費用は男性(義務者)から徴収されます。
作為義務(~せよ)が対象で、不作為義務(~するな)は対象外ということにも注意してくださいね。例えば、飲食店の営業停止処分を受けても営業を続けている人の、「営業しない義務」を代執行することはできません。
行政書士受験生の方は、「行政代執行法」の1条と2条の読み方は大丈夫ですか?
代執行は、「義務を課す」→義務の不履行→「代執行」の流れで行われます。
第1条にあるように、代執行は「法律」を根拠に行われます。「条例」を根拠に行うことはできません。
第2条では、1条と違って「法律」の後に、カッコ書きがついています。
つまり、最初の「義務を課す」の部分は、法律だけでなく「条例」も根拠に課すことができます。
今回も、「横須賀市不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例」に基づいて義務を課しても、義務の履行がなかった(ゴミを撤去しなかった)ので、「行政代執行法」に基づいて代執行がされていますね。
「行政代執行法」3条~6条は代執行の「方法」について書かれています。
①まず、文書で戒告
↓
②代執行令書で義務者に通知
↓
(緊急の場合は①②は省略できる)
↓
③代執行(執行責任者は証票を携帯し、要求があればいつでも呈示)
↓
④費用について文書で納付を命じる
↓
⑤納付がなければ強制徴収
↓
⑥徴収した費用は国、または地方公共団体の収入になる
という流れです。
また、今回のように、住所や氏名を「公表」することで、心理的なプレッシャーをかけて、義務の履行を促す方法があります。この「公表」自体は、行政手続法上の不利益処分にはあたりません。「聴聞」の対象外です。
行政書士受験生 注目ポイント まとめ
「行政強制」、「代執行」の定義を説明できるようにしておきましょう。 「行政代執行法」の1条と2条の違いをしっかり理解をしておきましょう。 「代執行の方法」を確認しておきましょう。
全国でゴミ屋敷対策の条例の制定が増えているそうです。つまり、全国でゴミ屋敷問題が増えているということですよね。
代執行は、他に方法がないときしかできないので、横須賀市は何年にもわたり100回以上、ゴミ屋敷の住人に指導をしていたそうです。
代執行後も、今回のように1,710kgのゴミを片付けるには多くの人手が必要です。1件解決するために、長い時間と多くの費用がかかります。その間にはネズミの被害や悪臭もあり、火災のおそれもあったようで、近所の方も長い間悩まされたと思います。
行政だけの問題にするのではなく、早期に解決できるような体制ができるといいですね。
関連する記事が他にもあります
時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「特別養子縁組年齢引き上げ案」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「新元号(元号法・天皇制)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「イギリス議会EU離脱協定案否決」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「消費税率引き上げ」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「離婚後の単独親権制度」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「ネットいじめ加害者情報開示命令」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「改正出入国管理法成立」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「ベネッセ個人情報流出事件(改正個人情報保護法)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「ゴーン容疑者の代表取締役解職(取締役会)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「辺野古移設問題(承認撤回に対する執行停止)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「アディーレ法律事務所 業務停止問題(景品表示法)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「森友学園問題(瑕疵担保責任)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「セクハラ疑惑(地方議会と長の関係)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「ゴミ屋敷(行政代執行)」時事問題で学ぶ行政書士試験
- 「自民党総裁選(憲法改正)」 時事問題で学ぶ行政書士試験