こんにちは。オンスク行政書士講座、担当の藍澤です。
連載「時事問題で学ぶ行政書士試験」では、ニュースの中から行政書士受験生に役立つものを取り上げ、学習のポイントを解説していきます。今回は、行政書士試験メイン科目の「行政法」からです。
時事問題ですので、もちろん行政書士受験生以外の方でも興味を持っていただけると思います。よろしければぜひご覧になってください。
本日取り上げる時事問題は「辺野古移設問題(承認撤回に対する執行停止)」です。
2018年10月17日、防衛省は、沖縄県の「辺野古埋め立ての承認撤回」に対して、「行政不服審査法に基づく審査請求」を行い、「執行停止」を申し立てました。
これを受けて、国土交通省は、30日に沖縄県の承認撤回の効力を一時的に停止する「執行停止」を決定しました。
辺野古移設問題(米軍普天間基地の辺野古への移設)は、沖縄県の米兵による少女暴行事件から始まりました。
今回の執行停止までの流れは以下のとおりです。
1995年 | 米兵による少女暴行事件をきっかけに、沖縄県で普天間基地の返還要求運動が起こる。 |
---|---|
1999年 | 名護市辺野古への移設が閣議決定される。 |
2009年 | 民主党に政権交代。鳩山元首相の「最低でも県外」発言で、辺野古への移設は白紙に戻る。 |
2012年 | 第2次安倍政権のもとで、仲井眞沖縄県知事が辺野古の埋め立てを承認。 |
2014年 | 辺野古移設に反対する翁長(おなが)県知事が当選。 |
2015年 | 翁長県知事が「辺野古の埋め立て承認」を「取り消す」が、国が反発。最高裁で、「取消し処分は違法」とする判決が確定し、沖縄県が敗訴した。 |
2018年 | 翁長県知事が「辺野古の埋め立て承認」を「撤回」する。 この撤回処分について、防衛省が審査請求を行い、執行停止を申し立て、国土交通省は執行停止を決定した。 |
とても複雑ですが、
沖縄県は、一旦承認したことを撤回しているので、承認していない状態に戻したい、つまり、「埋め立て工事をしたくない」と思っているのに対して、
国は、沖縄県の撤回処分を取り消して、承認した状態に戻したい、つまり、「埋め立て工事を進めたい」と思っています。
行政書士受験生 注目ポイント
行政書士受験生が注目すべきポイントは2つ、「取消しと撤回」、「執行停止」です。
取消しと撤回
まず、「取消しと撤回」です。私たちは日常生活であまり区別をせずに使っていますが、行政法上は明確に使い分けています。どちらも行政行為(処分)の効力を失わせることです。
「取消し」は、行政行為成立時から存在していた瑕疵を理由に、行政行為成立時に遡って、効力を失わせることです。
今回の問題でも、前県知事の埋め立て承認の過程(行政行為成立時)に瑕疵があったとして取消し処分がされましたが、最高裁は、この取消し処分を違法としています。
「撤回」は、瑕疵なく成立した行政行為の効力を、後に生じた事情を理由に、将来に向かって効力を失わせることです。
今回の問題でも、地盤が軟弱で、環境保全策が十分でないという後発的事由を根拠に撤回処分がされました。
法令上「撤回」であっても「取消し」という言葉が使われていることがあります。受験生は、「取消し」と書かれていても、「撤回」の可能性があるので注意してくださいね。
行政不服審査法に基づく執行停止
次に、「行政不服審査法に基づく執行停止」です。
沖縄県知事の「取消し」「撤回」は行政処分です。
行政不服審査法には、違法または不当な行政庁の処分に不服がある者は、審査請求をすることができるとされています。
よくクレームで「上の人をだせ!」と言いますよね。審査請求はまさにそのイメージです。
処分庁の処分に不服がある場合、(上級行政庁などの)審査庁に対して審査請求をすることができます。
今回の問題では、財務省が「沖縄県の撤回処分は違法不当だから取り消してほしい」と国土交通省にクレームを言った、ということです。
また、審査請求の結論が出るまでは時間がかかるため、執行停止の申立てもしています。
執行停止とは、処分の効力を止めることです。今回「撤回処分」の執行停止がされたので、暫定的に撤回処分がされる前の状態(埋め立てを承認した状態)に戻っています。
原則、審査請求がされたとしても、訴訟が提起されたとしても行政は止まりません。行政活動は迅速性が求められるものも多く、たくさんの人が関与し、私たちの日常生活に密着したことも多いからです。
原則、執行不停止で、執行停止は例外的な場合のみ、ということも覚えておきましょう。
行政書士受験生 注目ポイント まとめ
「取消し」と「撤回」相違点を説明できるようにしましょう。 行政不服審査法の執行停止の種類・要件・手続きを覚えましょう。 行政事件訴訟法の執行停止と混同しないようにしましょう。
翁長前知事は撤回処分後に亡くなり、同じく辺野古への移設に反対する、玉城デニーさんが新知事になりました。
辺野古への移設が閣議決定されてから20年が経とうとしていますが、今後も国と沖縄県の争いは続くことが考えられます。
“他県に住んでいるから無関心”ではなく、日本の問題として考えていきたいですね。
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