民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回のテーマは前回に引き続き「相続」です。
3. 自筆証書遺言の方式の緩和
(1)遺言とは
遺言とは、遺言者の最終の意思表示をいい、被相続人が、自分の死後に財産を相続させる者や相続させる財産の内容などについて生前に行う意思表示をいいます。
遺言は、民法で定められた形式で作成する必要があり、これに違反する遺言は無効となります。
遺言の方式には、一般的に用いられる普通方式と、遭難等特別な場合に用いられる特別方式とがあり、普通方式は、さらに、①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言の3種類に分けられます。
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文、日付および氏名を自書(手書き)して押印するものをいいます。
また、公正証書遺言とは、遺言者が公証人および証人の面前で口授した内容を、公証人が所定の方式により作成する遺言をいいます。
そして、秘密証書遺言とは、遺言内容を記載した証書に遺言者が署名押印し、これを封筒に入れて封をしたうえで封印し、公証人と証人の面前に提出して自己の遺言書である旨等を申述し、その内容を記載した書面に公証人が遺言者および証人とともに署名押印する方式の遺言をいいます。
(2)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、証人の立会いが必要なく、遺言を作成したこと自体を秘密にしておくことができる反面、容易に作成できるため、他人に偽造や変造される危険性があります。
そこで、遺言者本人が遺言をしていることを明確にするために、旧民法の時代から「全文自書」が要件とされています(新民法968条1項)。従って、ビデオテープによる遺言、全文がワープロ書きである遺言、点字で書かれた遺言などは無効となります。
ただし、遺言書の全部を自書することは負担が大きいことから、平成30年の民法改正により、「財産目録」の部分については自書することを要しないこととされました(新民法968条2項)。
従って、財産目録の部分については、ワープロ等での作成も認められます。ただし、財産目録の各頁に署名押印することが必要です。
4. 預貯金の払戻し制度の創設
相続人が数人いるときは、相続財産は、その者たちの共有となります(新民法898条)。また、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(新民法899条)。
そして、判例によれば、金銭債権などの分割可能な可分債権は、相続分に応じて、当然に分割承継され、各共同相続人は、遺産分割がなされる前であっても、それぞれ自己の相続分に応じて、弁済を請求することができるとされていました。
ところが、預貯金債権については、判例は、遺産分割の対象に含まれると判断したため、遺産分割までの間は、共同相続人全員が共同して行使しなければならず、配偶者等の一部の相続人が当面の生活費や葬儀費用に充てるため、一部を払い戻すことも認められないとされていました。
その結果、預貯金があるにもかかわらず、残された配偶者等の生活費が足りなくなったり、葬儀費用が払えなくなったりするという事例が生じる状況となってしまったのです。
そこで、新民法は、次のような規定を設けて、各共同相続人は,遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようにしたのです。
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条および第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。(新民法909条の2)
5. 遺留分制度の見直し
(1)遺留分とは
遺留分とは、近親者の相続期待利益を保護し、被相続人死亡後の遺族の生活を保障するため、一定の相続人のために法律上留保が認められた遺産の割合をいいます。
遺留分の保障を受けることができる者(遺留分権利者)は、被相続人の配偶者、直系卑属(子・孫など)、直系尊属(父母・祖父母など)に限られ、兄弟姉妹は遺留分を有しません。
(2)遺留分の割
遺留分権利者全員に割り当てられる遺留分の合計額を「総体的遺留分」といいます。そして、この総体的遺留分は、相続人が直系尊属のみの場合は被相続人の財産の1/3、それ以外の場合は1/2となります。
そして、総体的遺留分を、遺留分を有する相続人の法定相続分で配分したものが、それぞれの相続人の遺留分(個別的遺留分)となります。
(3)遺留分が侵害された場合の対処方法
例えば、Aが8,000万円相当の不動産を残して死亡した場合において、Aの相続人として、配偶者Bおよび子Cがいたとします。
Aが生前、Dにその8,000万円相当の不動産を遺贈していた場合、民法改正前においては、B、Cは、「遺留分減殺請求権」を行使することにより、その侵害された遺留分を取り戻すことができました。
ただ、民法改正前の「遺留分減殺請求権」は、遺留分を侵害されている相続人が、遺言などの効力を必要な範囲で失効させ、財産を取り戻すという制度であり、この遺留分減殺請求権が相続財産である不動産に対して行使されると、その不動産は、受遺者等と遺留分減殺請求をした相続人との共有となり、権利関係が複雑になってしまうという弊害が生じました。
そこで、新民法は、「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継しまたは相続分の指定を受けた相続人を含む。)または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」(新民法1046条1項)と規定して、遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を侵害している者に対して、侵害している遺留分の額(侵害額)に相当する金銭の支払いを請求できることとしました。そのため、名称も「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」へと変わりました。
連載「宅建試験で聞かれる民法改正点」、今回は2020年度宅建試験で聞かれる可能性が高い民法改正点のうち、「相続」について2回に分けて解説しました。
次回は「賃貸借」について解説していきます。
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