民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回3回に分けて取り上げるテーマは「賃貸借」です。
賃貸借は、宅建士試験に毎年出題される超重要項目ですが、今回、多くの改正がありました。
改正点1. 賃貸借の存続期間の延長
改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、「賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする。」(旧民法604条1項)と規定して、賃貸借の存続期間の上限を20年としていました。
また、更新後の存続期間についても、「賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から20年を超えることができない。」(旧民法604条2項)と規定して、20年を上限としています。
もっとも、民法の特別法である借地借家法では、建物所有目的の土地賃貸借については、存続期間を30年以上とするのみで、上限を設けておらず(借地借家法3条、9条)、また、建物賃貸借についても、上限は設けられていません(借地借家法29条2項)。
そして、農地または採草放牧地の賃貸借については、その存続期間は、50年が上限とされています(農地法19条)。
現代社会においては、ゴルフ場の敷地である山林の賃貸借のように、20年を超える賃貸借のニーズがあります。
もともと、20年という上限は、民法が制定された明治時代において、賃貸借の期間が長過ぎると、所有権が拘束されてしまって、物の改良ができなくなり、社会経済上不利益となるということで、設けられたものですが、その後、大正、昭和、平成と時代が変遷するとともに、民法の起草者(法律の原案を作成した人)の想定する利用実態とその後の利用実態との間にずれが生じていました。
そこで、改正後の民法(以下「新民法」という。)は、「賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。」(新民法604条1項)と規定して、賃貸借の存続期間の上限を50年に延長するとともに、更新後の存続期間についても、「賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。」(新民法604条2項)と規定して、50年を上限としました。
改正点2. 賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化
旧民法は、賃貸不動産が譲渡された場合の賃貸人の地位の移転については、なんらの規定も設けていません。
例えば、家主AがBに賃貸中の建物を第三者Cに譲渡したという事例の場合、賃借人Bは誰に対して賃料を支払えばよいかという問題について、民法には規定がありませんでした。
ただ、判例によれば、上記の事例の場合、①賃貸人たる地位はAからCに移転するとされ、ただし、②CがBに対して賃料請求等をするには、賃借人Bの保護を図るため、Cへの建物の所有権移転登記が必要である、とされました。
新民法は、以下のように規定して、判例法理を明文化しました。
① 賃借人が民法605条、借地借家法10条、31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件(賃借権の登記、借地上の建物の登記、建物の引渡し等)を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(新民法605条の2第1項)
② 不動産の譲渡人および譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨およびその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人またはその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。(新民法605条の2第2項)
現実の事例として、例えば、多数の入居者がいる賃貸マンションなどで、投資法人Cが、入居者のいる優良な賃貸不動産として取得したうえで、入居者との間の賃貸管理を引き続き旧所有者(賃貸人)に行わせるため、1棟ごと旧所有者に賃貸する(入居者は転借人となる)という事例があります。
前記の判例法理では、Cに賃貸人の地位が移転してしまうため、多数の賃借人との間で別途合意をする必要があり、同意を得るのがきわめて煩瑣となる反面、単純に同意を不要とすると、AC間の賃貸借が終了すると、入居者はCに対抗できず、退去を余儀なくされかねません。
そこで、新民法は、AC間の合意のみで賃貸人たる地位をAに留保できるが、AC間の賃貸借が終了した場合には、BらとCとの賃貸借関係に移行する旨を明文化したのです。
③ 賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。(新民法605条の2第3項)
④ 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。(新民法605条の3)
つまり、賃貸不動産が譲渡された場合に、賃借人が賃貸借の対抗要件を備えていないときでも、賃貸不動産の譲渡人と譲受人との間に賃貸人たる地位の移転についての合意があれば、賃借人の承諾を得ることなく、賃貸人たる地位は、譲受人に移転します。
(2020年宅建試験に出る民法改正点を徹底解説|㉗ 賃貸借 その2へ続きます)
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