民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されます。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回2回に分けて取り上げるテーマは、消滅時効に関する改正点です。
1. 時効期間と起算点に関する改正
消滅時効とは、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させる制度をいいます。
改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、債権の原則的な時効期間を権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年と規定したうえで、その例外として、職業別に時効期間を細かく区分する短期消滅時効(飲食料1年、弁護士の報酬2年、医師の診療報酬3年等)を規定していました。
しかし、この職業別の短期消滅時効は、①ある債権にどの時効期間が適用されるのか、複雑でわかりにくい、②1~3年という区別も合理性に乏しい、との批判がありました。
そこで、改正後の民法(以下「新民法」という。)は、職業別の短期消滅時効をすべて廃止しました。
また、「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年という時効期間は維持しつつ、新たに「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年という時効期間を追加して、客観的起算点から10年と主観的起算点から5年のいずれか早い方の経過によって時効が完成するものとしました(新民法166条1項)。
例えば、AからBが「私の父が亡くなったら100万円を返す。」という不確定期限付きで金銭を借り受けた場合には、その期限が到来した時から権利を行使することができますので、Bの父が亡くなった時(権利を行使することができる時)から10年と、AがBの父が亡くなったことを知った時(権利を行使することができることを知った時)から5年、のいずれか早い方の経過によって時効が完成することになります。
あるいは、消費者ローンの過払金返還請求権についていえば、取引終了時(権利を行使することができる時)から10年と、過払いであることを知った時(権利を行使することができることを知った時)から5年、のいずれか早い方の経過によって時効が完成することになります。
2. 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則
旧民法は、不法行為に基づく損害賠償請求権について、「被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時(主観的起算点)から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時(客観的起算点)から20年を経過したときも、同様とする。」と規定していました。
しかし、前者の「3年」については、①生命・身体は重要な法益であり、これに関する債権は他の債権よりも保護の必要性が高い、②治療が長期間にわたるなどの事情により、被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合があるとの批判がありました。
そこで、新民法は、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間について、これを長期化する特則を新設し、上記の「3年」を「5年」に延長し、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年としました(新民法724条の2)。
また、これとあわせて、債務不履行に基づく損害賠償請求権についても、それが人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権であるときは、客観的起算点からの時効期間を「10年」から「20年」に延長し、権利を行使することができる時から20年としました(新民法167条)。
3. 時効の中断・停止の改正
旧民法は、時効の進行や完成を妨げる事由として、「時効の中断」と「時効の停止」という概念を定めていました。
「時効の中断」とは、すでに経過した時効期間がリセットされて、新たに時効の進行を始めることをいい、「時効の停止」とは、一定の事由がある場合に、その事由が終了する等までの間は、時効が完成しないことをいいます。
しかし、
①「中断」ないし「停止」という表現がわかりにくい
②中断の効果としては「完成の猶予」と「新たな時効の進行(時効期間のリセット)」の2つがあるが、それぞれの効果の内容も発生時期も異なることから、新たに2つの概念を用いてわかりやすく整理すべきではないか
③「停止」についても、中断の見直しとあわせて整理をすべきではないか
④裁判上の催告に関する判例の考え方を条文上も明確にすべきではないか
との批判がありました。
そこで、新民法は、「時効の中断」を「時効の更新」、「時効の停止」を「時効の完成猶予」と呼び替えて、よりわかりやすい内容とする改正を行いました。
(2020年宅建試験に出る民法改正点を徹底解説|⑨ 消滅時効 その2へ続きます)
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