民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されます。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回のテーマは前回に引き続き、代理に関する改正点です。
代理は、宅建士試験の出題テーマの中でも特に出題頻度の高いテーマですが、今回の改正点は従来、出題の多い項目に関するもので、今後の本試験に出る可能性の高いところでもあります。本記事で解説する改正点は、確実に押さえておきましょう。
6. 無権代理・表見代理
(1)無権代理
代理権を有しない者(無権代理人)が代理行為を行う場合を「無権代理」といいますが、 無権代理が行われた場合の相手方保護のため、旧民法は、3つの権利、すなわち、①催告権、②取消権、③無権代理人に対する責任追及権を相手方に認めています。
相手方に上記3つの権利を認める点においては、新民法も変わりはありませんが、「無権代理人に対する責任追及権」が認められるための要件について改正を行っています。
旧民法は、「他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき(悪意)、もしくは過失によって知らなかったとき(善意・有過失)、または他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったとき」には、責任追及できないとしていました(旧民法117条2項)が、新民法は、「他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたとき」には、相手方に過失があっても責任追及ができることとしました(新民法117条2項2号ただし書き)。
(2)表見代理
表見代理とは、無権代理の場合であっても、代理権があるかのような外観があり、相手方がその外観を信頼して取引関係に入ったとき(善意・無過失)は、相手方保護のため、本人の追認がなくても、有効な代理行為として扱う(代理行為の効果を本人に帰属させる)という制度をいいます。
旧民法は、①代理権授与の表示による表見代理、②権限外の行為の表見代理、③代理権消滅後の表見代理の3つの類型についてのみ規定していました。
① 代理権授与の表示による表見代理
これは、本人が代理人とされた者に対して実際には代理権を与えていないにもかかわらず、相手方に対してその者に代理権を与えた旨の表示がなされ、その者が代理行為を行った場合をいいます。
例えば、AがBを代理人とする予定でBに白紙委任状を交付したが、結局代理権を与えなかったところ、Bが委任状の代理人欄にBと記載して、これをCに呈示して代理行為をしたような場合が該当します。
この場合、Cが善意・無過失であれば、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に契約が成立します。
② 権限外の行為の表見代理
これは、代理人が本人から与えられた代理権の範囲を超えて代理行為を行った場合をいいます。
例えば、AがBに土地を賃貸する代理権を与えたところ、Bが土地をCに売却したような場合が該当します。
この場合、Cが善意・無過失であれば(正当の理由があれば)、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に売買契約が成立します。
過失であれば、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に契約が成立します。
③ 代理権消滅後の表見代理
これは、かつて代理権を持っていた者が、代理権がなくなった後に代理行為を行った場合をいいます。
例えば、BがAから土地を売却する代理権を授与されていたが、その後破産して代理権が消滅したにもかかわらず、Aの代理人として土地をCに売却したような場合が該当します。
この場合、Cが善意・無過失であれば、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に契約が成立します。
新民法は、表見代理について、上記3つの類型に加えて、新たに次の2つの類型を規定しました。
④ 代理権授与の表示による表見代理と権限外の行為の表見代理の重畳適用
「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすればその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」(新民法109条2項)。
これは、例えば、Aから土地の賃貸に関する委任状の交付を受けてはいるが実際には賃貸の代理権を与えられていないBが、その委任状を呈示して、Aの代理人としてCに土地を売却したような場合が該当します。
この場合、Cにおいて、Bに土地売却の代理権があると信ずべき正当な理由がある(善意・無過失)ときは、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に土地の売買契約が成立します。
⑤ 代理権消滅後の表見代理と権限外の行為の表見代理の重畳適用
「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすればその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」(新民法112条2項)。
これは、例えば、BがAから土地を賃貸する代理権を授与されていたが、その後破産して代理権が消滅したにもかかわらず、Aの代理人として土地をCに売却したような場合が該当します。
この場合、CにおいてBに土地売却の代理権があると信ずべき正当な理由がある(善意・無過失)ときは、代理行為の効果がAに帰属し、AC間に有効に土地の売買契約が成立します。
連載「宅建試験で聞かれる民法改正点」、今回は2020年度宅建試験で聞かれる可能性が高い民法改正点のうち、「代理」について3回に分けて解説しました。
次回は「消滅時効」について解説していきます。
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