民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしてきました。
残る2回は、これまで触れることができなかった重要な改正点について説明をしていきます。
目次
1. 法定利率の改正
改正前の民法(以下「旧民法」という。)では、法定利率は年5%とされていましたが、改正後の民法(以下「新民法」という。)は、これを年3%とし、3年に1度見直しをすることとしました(新民法404条2項・3項)。
2. 解約手付による解除の改正
解約手付が授受された場合において、売主が契約を解除する場合について、旧民法は、買主から受領した手付の倍額を償還して解除できると規定するのみでしたが(旧民法557条1項)、新民法は、従来の判例の見解を採用して、売主は、買主から受領した手付の倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができると規定しました(新民法557条1項)。
「現実の提供」とは、売主が手付の倍額を買主のもとに持参するなど、あとは買主が受け取るのを待つだけという状態になるようにやるべきことは全部やった状態をいいます。
従って、電話をかけて「倍額を償還する用意ができた」というだけでは、現実の提供をしたことにはなりません。
3. 時効の援用権者についての改正
民法改正前においては、判例は、時効の援用ができる「当事者」とは、「権利の消滅により直接利益を受ける者」だとしていました。
そして、その具体例として、判例は、債務者本人以外に、保証人(連帯保証人を含む)、物上保証人、第三取得者などを挙げていました。
新民法は、このような判例を踏まえて、時効の援用ができる者(時効の援用権者)について、消滅時効の場合は、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者と規定しました(新民法145条)。
4. 債務引受に関する規定の新設
債務引受とは、債務を、債務者以外の第三者が引き受けることをいいます。債務を引き
受けた第三者を「引受人」といいます。
この債務引受には、次の2種類があります。
(1)併存的債務引受
併存的債務引受とは、引受人が、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担することをいいます(新民法470条1項)。
(2)免責的債務引受
免責的債務引受とは、引受人が、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担することによって、債務者が自己の債務を免れることをいいます(新民法472条1項)。併存的債務引受と異なり、引受人のみが債務者となります。
5. 詐害行為取消権についての改正
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる権利をいいます。
例えば、AがBに対して1,000万円の貸金債権を有している場合に、Bが時価3,000万円相当の甲土地以外に見るべき財産を有していないにもかかわらず、その甲土地をCに贈与したため無資力となってしまったときは、Aは、BのCに対する贈与を取り消して、甲土地をBの下に取り戻すことができます。
この場合において、Aの債権を「被保全債権」、BのCに対する贈与を「詐害行為」、Cを「受益者」といいます。Cからさらに甲土地を譲り受けたDがいる場合には、Dは「転得者」と呼ばれます。
判例は、従来、不動産を売却して消費・散逸しやすい金銭に換えることは、原則として詐害行為になるという見解を採っていましたが、相当の対価による売却等であるにもかかわらず、詐害行為取消しの可能性があるとされては、取引の相手方が萎縮してしまいます。
そこで、新民法は、取引の安全を図って、以下のような規定を設けました。
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる(新民法424条の2)。
① その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(隠匿等の処分)をするおそれを現に生じさせるものであること。
② 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
③ 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
(2020年宅建試験に出る民法改正点を徹底解説|㉚ その他の改正点 その2へ続きます)
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