民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回3回に分けて取り上げているテーマは「賃貸借」です。
前回は、賃貸借の存続期間の延長、賃貸不動産が譲渡された場合のルール、前々回は、敷金の改正点について説明しました。
今回は、賃貸借終了時のルールの明確化(原状回復)その他、前回までに触れることができなかった改正点について説明します。
1. 賃貸借終了時のルールの明確化(原状回復義務等の明文化)
賃貸借の終了時における賃借物の原状回復の範囲等について、旧民法には規定がありません。
他方、この問題を巡る紛争は、現実に少なくなく、判例等の積重ねによって、その紛争が解決されてきました。
ただ、市民生活に多くみられるトラブルの解決指針となるルールは、紛争の迅速な解決のためにも、民法にきちんと明記すべきではないかとの指摘がありました。
そこで、新民法は、次のように、賃貸借契約の終了時における原状回復義務等について明文の規定を設けました。
① 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化を除く。以下同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。(新民法621条)
② 第597条第1項、第599条第1項および第2項ならびに第600条の規定は、賃貸借について準用する。(新民法622条)
※ 新民法622条により準用される規定の内容は、次のとおりです。
ⅰ 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。(新民法597条1項)
ⅱ 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物または分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。(新民法599条1項)
ⅲ 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。(新民法599条2項)
ⅳ 契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償および借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。(新民法600条1項)
ⅴ 前記ⅳの損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。(新民法600条2項)
以上を要約すると、賃借物に損傷が生じた場合には、原則として、賃借人は原状回復の義務を負うが、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化については、その義務を負わないというルールが民法に明記されたのです。
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、通常損耗または経年劣化に該当する例としては、家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡、テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)、地震で破損したガラス、鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)などがあります。
これに対し、引っ越し作業で生じたひっかきキズ、タバコのヤニ・臭い、飼育ペットによる柱等のキズ・臭い、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損などは、通常損耗または経年劣化に該当しないとされています。
2. 賃借物の一部滅失による賃料の自動減額
旧民法は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。」(旧民法611条1項)と規定していました。
そして、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失した場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。」(旧民法611条2項)と規定していました。
新民法は、上記の旧民法611条を改正して、次のように規定しました。
① 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。(新民法611条1項)
つまり、旧民法が賃借人の請求によってはじめて賃料が減額されるとしていたのを、新民法は、賃借人の請求をまつことなく当然に賃料が減額されるとしたのです。
② 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。(新民法611条2項)
つまり、旧民法が契約の解除の要件として賃借人の過失を必要としていたのを、新民法は、契約の解除の要件としては賃借人の過失を要しないこととしたのです。
3. 賃貸物の修繕
旧民法は、「賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う。」(旧民法606条1項)と規定していましたが、新民法は、「賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」(新民法606条1項)と規定して、賃貸物の修繕が賃借人の帰責事由(落ち度)によって必要となったときは、賃貸人は修繕義務を負わないものとしました。
例えば、賃借人が借りている建物の壁を叩いて穴を空けたような場合には、賃貸人はこれを修繕する義務を負わないことになります。
また、新たに、以下のような「賃借人による修繕」の規定を設けました。
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる(新民法607条の2)。
① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
② 急迫の事情があるとき。
「急迫の事情があるとき」とは、例えば、賃借人の借りている建物の屋根からの雨漏りがひどいため、急いで屋根の修繕をしないと、とても住めないような場合をいいます。
連載「宅建試験で聞かれる民法改正点」、今回は2020年度宅建試験で聞かれる可能性が高い民法改正点のうち、「賃貸借」について3回に分けて解説しました。
次回は「その他の改正点」について解説していきます。
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