民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されます。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回のテーマは前回に引き続き、消滅時効に関する改正点です。
具体的には、何が「時効の更新事由」に該当し、何が「時効の完成猶予事由」に該当するかについて、説明します。
目次
1. 裁判上の請求(訴えの提起)(新民法147条)
債権者が裁判上の請求をした場合、原則として、その手続が終了するまでの間は、時効は、完成しません(時効の完成猶予)。
また、確定判決または確定判決と同一の効力を有するもの(訴訟上の和解や調停の成立など)によって権利が確定することなくその事由が終了した場合(訴えの取下げや訴えの却下などによって手続が終了した場合)にあっては、その終了の時から6ヵ月を経過するまでの間は、時効は、完成しません(時効の完成猶予)。
そして、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき(勝訴判決が確定した場合)は、時効は、裁判上の請求の手続が終了した時(勝訴判決が確定した時)から新たにその進行を始めます(時効の更新)。
このように、裁判上の請求には、時効の完成猶予と時効の更新の2つの効果があることに注意してください。
2. 強制執行等(新民法148条)
強制執行等(強制執行、担保権の実行等)を完成猶予事由とし、その手続の終了(ただし、取下げ等により途中で終了した場合を除く。)を更新事由としました。
3. 仮差押え・仮処分(新民法149条)
仮差押え・仮処分は、旧民法では中断事由とされていましたが、新法は、これを完成猶予事由としました。
4. 催告(新民法150条)
催告とは、「裁判外の請求」ともいい、裁判上の手続によらないで、債権者が債務者に対して債務の履行を請求することをいいます。例えば、内容証明郵便による支払請求は、催告に当たります。
催告があったときは、その時から6ヵ月を経過するまでの間は、時効は、完成しません(時効の完成猶予)。
なお、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しません。催告による6ヵ月間の時効完成猶予は、一度きりの効果であり、債権者が時間稼ぎのために何度も催告しても、無駄だということです。
5. 天災等による時効の完成猶予(新民法161条)
旧民法は、天災等による時効の停止(新民法は「時効の完成猶予」)の期間について「障害が消滅した時から2週間」と規定していましたが、この期間は短すぎるとの批判をうけて、新民法は、時効の完成猶予の期間を「3ヵ月」に延長しました。
6. 協議を行う旨の合意(協議合意)による時効の完成猶予(新民法151条)
これは、今回の改正によって新たに設けられたものです。
権利についての協議を行う旨の合意(協議合意)が書面またはその内容を記録した電磁的記録でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しません(時効の完成猶予)。
① その合意があった時から1年を経過した時
② その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
③ 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6ヵ月を経過した時
協議合意により時効の完成が猶予されている間にされた再度の協議合意は、時効の完成猶予の効力を有します。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができません。
これに対し、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた協議合意は、時効の完成猶予の効力を有しません。協議合意により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、時効の完成猶予の効力を有しません。
7. 承認による時効の更新(新民法152条)
承認とは、債務者が債権者に対して権利の存在を知っていることを示すことをいいます。
例えば、Aから100万円を借りているBが、Aに対して、支払いを猶予してくれるように申し入れたり、10万円を返済するなど借金の一部を返済すると、承認をしたことになります。
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始めます(時効の更新)。
連載「宅建試験で聞かれる民法改正点」、今回は2020年度宅建試験で聞かれる可能性が高い民法改正点のうち、「消滅時効」について2回に分けて解説しました。
次回は「債権譲渡」について解説していきます。
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