民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしてきました。
今回はついに最終回。前回に引き続き、これまで触れることができなかった重要な改正点について説明をしていきます。
目次
6. 連帯債権に関する規定の新設
連帯債権とは、複数の債権者が、1個の可分給付について、債務者に対し、連帯して債権を有している場合をいいます。
例えば、A・B・Cの3人が、共同してDに3,000万円を貸し付けた際に、当事者間で「A・B・Cのそれぞれが3,000万円全額をDに請求できる」旨の合意をしたような場合が該当します。
上記の事例において、DがAの請求に応じて3,000万円全額を弁済したときは、これによってA・B・Cの連帯債権は消滅します。
(1)連帯債権者による履行の請求等
債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定または当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、すべての債権者のために全部または一部の履行を請求することができ、債務者は、すべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができます。(新民法432条)
前述の事例において、Aは、自分とB・Cのために、Dに対して3,000万円の弁済を請求することができます。また、「1,000万円を支払え」というように、一部の弁済を請求することもできます。
他方、Dは、A・B・Cのために、AやBやCに対して弁済をすることができます。
DがAに対して1,000万円を弁済したときは、その効力はB・Cにも及び、連帯債権は、1,000万円について消滅します。
以後は、A・B・Cは、Dに対して残額である2,000万円を請求することができます。
(2)連帯債権者の1人との間の更改または免除
連帯債権者の1人と債務者との間に更改または免除があったときは、その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益にかかる部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができません。(新民法433条)
前述の事例において、AがDに対して3,000万円の債務の全額を免除したとします。
この場合、Dは、Aに対して3,000万円を弁済する必要がなくなるともに、免除の効力がB・Cにも及んで、B・Cは、本来3,000万円の弁済を受けられた場合にAが分配を受けるはずであった1,000万円については、Dに対して請求することができなくなります。つまり、B・Cは、Dに対して2,000万円までしか請求できなくなります。
この点は、更改の場合も同様です。
前述の事例において、AがDとの間で、3,000万円の代わりに、3,000万円相当の絵画を引き渡すという更改契約を締結した場合、Dは、Aに3,000万円を弁済する必要がなくなりますが、これと同時に、更改の効力がB・Cにも及んで、B・Cは、本来3,000万円の弁済を受けられた場合にAが分配を受けるはずであった1,000万円については、Dに対して請求することができなくなります。
その後、AがDから絵画の引渡しを受けたときは、Aは、B・Cにそれぞれ1,000万円ずつ分配しなければなりません。
他方、B・CがDから2,000万円の弁済を受けたときは、Aに分配する必要はありません。
(3)連帯債権者の1人との間の相殺
債務者が連帯債権者の1人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対しても、その効力を生じます。(新民法434条)
前述の事例において、DがAに対して3,000万円の反対債権を有していたとします。
この場合において、Dがこの反対債権を自働債権として、3,000万円の貸金債務と相殺したときは、これによってA・B・Cの連帯債権は消滅します。
あとは、3,000万円はAが回収したものとして、Aは、B・Cに対してそれぞれ1,000万円ずつ分配することになります。
(4)連帯債権者の1人との間の混同
連帯債権者の1人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなされます。(新民法435条)
前述の事例において、AとDが親子の関係で、Aが死亡してDがAを相続したとします。
この場合、Dには、3,000万円の債権と債務が帰属していることになりますが、これを混同といいます。
混同により、Dは、弁済をしたものとみなされ、Dの3,000万円の債権と債務は消滅します。
そして、この効力はB・Cにも及び、B・Cの3,000万円の債権も消滅します。
あとは、Dは、B・Cに対してそれぞれ1,000万円ずつ分配することになります。
(5)相対的効力の原則
第432条から第435条までに規定する場合を除き、連帯債権者の1人の行為または1人について生じた事由は、他の連帯債権者に対してその効力を生じません。ただし、他の連帯債権者の1人および債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従います。(新民法435条の2)
今回をもちまして、「宅建試験で聞かれる民法改正点」の連載は終了となります。本記事が、読者の皆様の宅建試験合格の一助となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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