民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
本連載では30回に渡り、2020年度宅建試験に出題の可能性のある民法改正点に焦点を当てて解説をしていきます。
今回のテーマは前回に引き続き「保証債務」です。
保証債務は、抵当権と並ぶ債権担保の方法であり、宅建試験における頻出項目の1つとなっています。今回の民法改正により、保証債務についても多くの改正がありました。
目次
5. 事業にかかる債務についての保証契約の特則
新民法は、事業にかかる債務についての保証契約に関して以下のような規定を新設しました。
① 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約または主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約(保証人になろうとする者が法人である場合を除く。)は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1ヶ月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じません(新民法465条の6第1項)。
従来、主たる債務が多額になる傾向が強い事業性の借入れの場合、保証人が予想外に多額の保証債務を負わされて、その生活が破綻することが少なくありませんでした。
そこで、新民法は、保証人になろうとする者に対して慎重に確認する機会を与えてその保護を図るため、前記のような規定を設けたのです。
② 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証または主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者(法人を除く。)に対し、財産および収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況、主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨およびその内容に関する情報を提供しなければなりません(新民法465条の10第1項)。
事業にかかる債務についての保証人になるに当たって、主たる債務者の財産状況等(保証のリスク)を十分に把握していない事例が少なくありません。
ところが、旧民法の下では、主たる債務者は、自らの財産状況等を保証人に説明する義務を負っておらず、また、債権者も、主たる債務者の財産状況等を保証人に伝える義務を負っていません。
そこで、新民法は、事業にかかる債務についての保証人となろうとする者の保護を図るため、前回解説した保証契約締結時の情報提供義務に関する規定を新設したのです。
6. 個人根保証のルールの適用対象の拡大
保証には、契約時に特定している債務を保証する通常の保証(例えば、住宅ローンの保証)のほかに、将来発生する不特定の債務を保証する根保証(例えば、継続的な事業用融資の保証)という制度がありますが、この根保証について改正がありました。
旧民法の下では、主たる債務に貸金等債務が含まれていない根保証(例えば、賃貸借や継続売買取引の根保証)については、極度額(保証の限度額)の定めが要求されず(極度額を定めなくても保証契約は有効)、元本確定期日(保証期間)に制限がなく、また、元本確定事由(主たる債務者の死亡等の特別事情による保証の終了)について特に規定がありませんでした。
しかし、貸金等債務以外の根保証についても、個人根保証人が想定外の多額の保証債務の履行や、想定していなかった主たる債務者の相続人の保証債務の履行を求められる事例は少なくありません。
例えば、借家が賃借人の落ち度で焼失し、その損害額が保証人に請求されるケースや、賃借人の相続人が賃料の支払等をしないケースなどにおいて、個人保証人が想定外の多額の保証債務等を求められることがありました。
また、旧民法の個人根保証のルールをすべての契約に拡大すると、例えば、賃貸借契約について、最長でも5年で保証人が存在しなくなるといった事態が生ずるおそれがあることも指摘されていました。
そこで、新民法は、すべての個人根保証契約に極度額の定めを義務付けることとしました。
すなわち、主たる債務に貸金等債務が含まれていない個人根保証契約の場合でも、極度額を定めなければ、その効力を生じないものとしました。
また、特別事情(主たる債務者の死亡や、保証人の破産・死亡等)がある場合の根保証の終了については、すべての根保証契約に適用することとしました。
ただし、主たる債務者の破産等があっても、賃貸借等の根保証が終了しない点は、新民法の下でも変わらず、また、保証期間の制限についても、引続き賃貸借等の根保証には適用しないこととされました。
連載「宅建試験で聞かれる民法改正点」、今回は2020年度宅建試験で聞かれる可能性が高い民法改正点のうち、「保証債務」について3回に分けて解説しました。
次回は「委任・請負」について解説していきます。
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