民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。
そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。
今回、2回に分けて取り上げるテーマは「契約の解除」です。
改正民法(以下「新民法」という。)は、契約の解除の要件として、債務者の帰責事由を不要とする重要な改正を行っています。また、催告解除や無催告解除についても改正が行われています。
目次
1. 債務者の帰責事由の要否
債務者に債務不履行があった場合の効果として、債権者には、損害賠償請求権のほかに、契約の解除権が認められますが、損害賠償請求が認められるためには、原則として、債務者に帰責事由があることが必要とされます。
それでは、契約の解除の場合にも、債務者に帰責事由があることが必要とされるのでしょうか。
この点については、改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、履行不能による解除については、「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」(旧民法543条)と規定して、債務者の帰責事由が必要であることを規定していました。
他方、履行遅滞による解除については、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。」(旧民法541条)と規定するのみで、債務者の帰責事由が必要か否かについては、特に規定していませんでした。
契約の解除の場合にも、債務者に帰責事由があることが必要かという問題について、伝統的学説は、履行不能による解除の場合だけでなく、履行遅滞による解除の場合についても債務者の帰責事由が必要であると解していました。
しかし、このような解釈を採ると、例えば、
買主Aが売主Bからパソコンを仕入れる契約を結んだところ、売主Bの工場が落雷による火災(売主Bに帰責事由がない火災)で焼失し、納期を過ぎても復旧の見込みが立たず、パソコンの引渡しを受けることができなくなった。
という場合、買主Aとしては、“パソコンが納品されないとその事業に支障が生ずるので、売主Bとの契約を解除し、同業他社のCと同様の契約を結びたい”というようなときでも、売主Bに帰責事由がないため解除はできないことになり、不当な結果となります。
買主Aは、売主B が債務を履行する目途が立たない状況でも、安心して別の取引先Cとの間で必要な契約をすることができません。
そこで、新民法は、債務不履行による契約の解除の要件として債務者に帰責事由があることは不要としました。
これは、解除制度は、債務の履行を怠った債務者に対する制裁を目的とするものではなく、履行を受けられない債権者を契約関係から解放するものであるとの考え方によるものです。
従って、新民法の下では、買主Aは、債務者たる売主Bに帰責事由がなくても、Bとの契約を解除することができることになります。
このように、債務不履行による契約の解除の要件として、債務者の帰責事由は不要であるという重要な変更は、ビジネス実務に少なからぬ影響を与えるものと思われます。
というのは、民法改正前においては、民事裁判において、原告である債権者が債務不履行による契約の解除を主張した場合に、被告である債務者が、その抗弁として、“債務者には帰責事由がなかった”とすることがありましたが、民法改正により、債務者に帰責事由があることは契約の解除の要件ではなくなったわけですから、今後は、裁判において債務者がこのような抗弁をすることは、全く失当であるということになります。
なお、債権者に帰責事由がある場合(例えば、買主が目的物を壊したため、売主が目的物の引渡しをすることができなくなったような場合)には、債権者に解除を認める必要はないことから、新民法は、「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、契約の解除をすることができない。」(民法543条)と規定しました。
(2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑧ 契約の解除 その2へ続きます)
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