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2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑮ 詐害行為取消権 その1

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑮ 詐害行為取消権 その1

民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。

そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。

前回の記事では、債務者の責任財産の保全を目的とする制度としての「債権者代位権」について説明しました。
今回からは、同じく債務者の責任財産の保全を目的とする制度である「詐害行為取消権」について、4回に分けて説明します。

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詐害行為取消権の意義

詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる権利をいいます。

例えば、AがBに対して1,000万円の貸金債権を有している場合に、Bが時価3,000万円相当の甲土地以外に見るべき財産を有していないにもかかわらず、その甲土地をCに贈与したため無資力となってしまったときは、Aは、BのCに対する贈与を取り消して、甲土地をBの下に取り戻すことができます。

この場合において、Aの債権を「被保全債権」、BのCに対する贈与を「詐害行為」、Cを「受益者」といいます。Cからさらに甲土地を譲り受けたDがいる場合には、Dは「転得者」と呼ばれます。

詐害行為取消権の意義

改正前の民法の内容(1) 詐害行為取消権の要件

改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、詐害行為取消権について、以下のような規定を設けていました。

① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者または転得者がその行為または転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。(旧民法424条1項)

② 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。(旧民法424条2項)

以上の規定から、旧民法における詐害行為取消権の要件は、次の3つということになります。

① 財産権を目的とする法律行為であること。
ただし、一般に、取消しの対象は「法律行為」に限らず、弁済や債務の承認のように法律行為以外の行為も、取消しの対象となると解されています。

② 債務者が債権者を害することを知ってした法律行為(詐害行為)であること。
この要件から、詐害行為取消権の要件として、「債務者が無資力であること」が導かれると解されています。

③ 受益者・転得者のいずれもが債権者を害することを知っていたこと。
ただし、判例は、受益者が善意であっても、転得者が悪意であれば、転得者を相手とする詐害行為取消請求を認めていました。
さらに、判例は、上記の要件に加えて、「被保全債権が詐害行為の行われる前に発生したこと」も必要としています。

改正前の民法の内容(2)取消しの範囲

判例は、被保全債権の額が取消しの対象となった行為の目的財産の額よりも小さい場合で、その目的財産が金銭のように可分であるときは、被保全債権の額の限度においてのみ取消しが認められるとしています。

改正前の民法の内容(3)取消しの効果

旧民法425条は、取消しの効果として、「前条(424条)の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。」と規定していました。

あくまでも、詐害行為取消権は、債務者の下から逸出した財産を債務者の一般財産(責任財産)に取り戻すための制度であり、特定の債権者の利益のためにのみ行使されるものではないということです。

ただし、判例は、取戻しの対象が金銭または動産である場合には、債権者は、受益者または転得者に対し、当該金銭等の自己への引渡しを請求できるとし、さらに、当該受領した金銭については、債務者が債権者に対して有する当該金銭の返還請求権と被保全債権とを相殺することを認めていますので、債権者は、事実上優先弁済を受けることができます。

改正前の民法の内容(4)詐害行為取消権の期間の制限

旧民法426条は、「第424条の規定による取消権(詐害行為取消権)は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑯ 詐害行為取消権 その2へ続きます)

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