民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。
そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。
今回のテーマは「債務引受」です。民法の改正により、判例や学説で認められていた「債務引受」に関する規定が新設されました。
1. 債務引受とは
債務引受とは、債務引受契約により、債務者以外の第三者が債務の履行義務を負うことをいいます。債務を引き受けた第三者を「引受人」といいます。
債務引受には、「併存的債務引受」と「免責的債務引受」の2種類があります。
2. 併存的債務引受
(1)意義
併存的債務引受とは、引受人が、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担することをいいます(新民法470条1項)。
(2)要件
併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によって成立します(新民法470条2項)。
また、併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができます(新民法470条3項)。
この場合、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力が生じます(新民法470条4項)。
債務者と引受人となる者との契約によって成立した併存的債務引受については、「第三者のためにする契約」に関する規定が適用されます(新民法470条5項)。
(注)第三者のためにする契約とは、契約当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約をいいます(新民法537条1項)。例えば、AがBに100万円を貸し付けた場合に、AB間で「BはCに対して100万円を弁済する。」と約したような場合です。この場合、Aを「要約者」、Bを「諾約者」、Cを「第三者・受益者」といいます。
(3)効果
引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担します(新民法470条1項)。
この場合、債務者と引受人の債務は、連帯債務となります。
引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(新民法471条1項)。
例えば、AがBに100万円を貸し付けた場合において、Cの併存的債務引受の効力が生じた時は、BがすでにAに対して50万円を弁済していたならば、Cは、引き受けた100万円の債務のうち50万円については、Aに対してその弁済を拒むことができます。
債務者が債権者に対して取消権または解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができます(新民法471条2項)。
3. 免責的債務引受
(1)意義
免責的債務引受とは、引受人が、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担することによって、債務者が自己の債務を免れることをいいます(新民法472条1項)。
併存的債務引受と異なり、引受人のみが債務者となります。
(2)要件
免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によって成立します(新民法472条2項前段)。この場合、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力が生じます(新民法472条2項後段)。
また、免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができます(新民法472条3項)。
(3)効果
引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(新民法472条の2第1項)。
例えば、AがBに100万円を貸し付けた場合において、Cの免責的債務引受の効力が生じた時は、BがすでにAに対して50万円を弁済していたならば、Cは、引き受けた100万円の債務のうち50万円については、Aに対してその弁済を拒むことができます。
債務者が債権者に対して取消権または解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができます(新民法472条の2第2項)。
免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しません(新民法472条の3)。これに対し、併存的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得します。
(4)免責的債務引受による担保の移転
債権者は、472条1項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権や保証について、引受人が負担する債務に移すことができます(新民法472条の4第1項本文、3項)。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければなりません(新民法472条の4第1項ただし書き、3項)。
この規定による担保権の移転等は、あらかじめまたは同時に引受人に対してする意思表示によってしなければなりません(新民法472条の4第2項、3項)。
連載「2020民法大改正|ビジネス実務への影響」、今回は「債務引受」について解説しました。
次回は「契約の成立時期」について解説します。
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