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2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑲ 弁済

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑲ 弁済

民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。

そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。

今回のテーマは「弁済」です。民法改正により、債権の消滅事由である「弁済」について新たなルールが定められています。

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1. 弁済とは

弁済とは、「債務の履行」と同じ意味で、例えば、借金をした場合に約束どおりに返済する、というように、債務の内容である給付を、その債務の本旨(趣旨や目的)に従って実現する行為をいいます。

改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、弁済が債権の消滅事由であることを明確にする規定を特に設けていませんでしたが、改正後の民法(以下「新民法」という。)は、以下のように、弁済が債権の消滅事由であることを条文上も明らかにしました。

債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。(新民法473条)。

2. 第三者の弁済

債務の弁済は、債務者以外の第三者でもすることができます。この点は、旧民法でも新民法でも変わりはありません。債権者としては、通常、弁済を受けられれば、それが誰によってなされたものであろうと、満足を得られるからです。

ただし、一定の場合には、第三者の弁済が許されません。この点につき、改正がありました。

(1)旧民法の規定

旧民法は、第三者の弁済が許されない場合として、次のように規定していました(旧民法474条)。

債務の性質がこれを許さないとき(例えば、歌手のコンサートや学者の講演)
② 当事者が反対の意思を表示したとき(つまり、当事者間で第三者には弁済させないという特約があるとき)
③ 利害関係を有しない第三者が債務者の意思に反して弁済をするとき

利害関係を有しない第三者」とは、物上保証人(他人の債務を担保するために自己の財産に抵当権などの担保権を設定した者)や抵当不動産の第三取得者(抵当権が設定された不動産を買った者)などのように、債務者が債務を弁済しないときに、自分が代わって弁済をしないと、自己の財産を失うというような法律上不利益を受ける危険性がある者に該当しない第三者をいい、親子の関係にある者、兄弟姉妹の関係にある者、友人や知人の関係にある者などが該当します。

例えば、子どもが借金の返済に苦しんでいるのを見かねた親が、子どもの意思に反して借金を返済することは許されないということです。子どもにとっては、親が自分に代わって借金を返済することは、「余計なお節介」だからです。

これに対し、物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、債務者に代わって弁済をしないと、自己の財産を失うおそれがあるわけですから、「余計なお節介」とはいえません。従って、物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、「利害関係を有する第三者」として、債務者の意思に反するときでも、債務者に代わって弁済をすることができます

(2)新民法の規定

旧民法の下では、親が子どもの借金の返済を申し出たのでお金を受領したが、子どもの同意がなかったことが判明した場合、その弁済は無効となり、債権者は、親にお金を返して、改めて子どもに対して借金の取立てをしなければならないという事態が起こりえます。しかし、これでは、債権者の立場が不安定になり、妥当ではありません。

そこで、新民法は、次のような改正を行いました。

弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。(新民法474条2項)

「弁済をするについて正当な利益を有する者」というのは、表現は違いますが、旧民法の「利害関係を有する者」と同じ意味です。従って、新民法の下でも、親が子どもの借金の返済を申し出たのでお金を受領したが、子どもの同意がなかったことが判明した場合、その弁済は、原則として無効となります。

ただし、債務者の意思に反すること、すなわち、債務者である子どもの同意がなかったことを債権者が知らなかったときは、その弁済は有効となります。この点が旧民法と異なるところです。

また、住宅ローンをかかえた債務者が行方不明で、その債務者の親が、子どものために銀行にローンの返済に来たときに、債務者の意思を確かめない限り、銀行は返済を受けられないというのでは、銀行実務が停滞してしまうという事情もありました。
そこで、上記のような例外規定が設けられたのです。

弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。(新民法474条3項)

旧民法は、「債権者の意思に反する弁済」を特に問題としていませんでしたが、例えば、債務者の意思には反しなくても、暴力団員などの反社会的な勢力の者が、債務者に代わって弁済をすることを債権者に迫った場合に、債権者においてそれを拒めなければ、問題が生じます。このような弁済によって、債権者は、反社会的な勢力の者と接点を持つことになってしまうからです。

そこで、新民法は、「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。」という規定を設けたのです。

ただし、その第三者が債務者の委託を受けており、そのことを債権者も知っている場合には、債権者の意思に反しても、第三者として弁済ができることになり、その場合の弁済は、有効となります。このような場合は、債務者・債権者のいずれも不当に不利益を受けるおそれがないからです。

3. 受領権者としての外観を有する者に対する弁済

旧民法は、「債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。」(旧民法478条)という規定を設けていました。

債権の準占有者」とは、判例によれば、真実の権利者であると信じさせるような外観を有する者をいい、例えば、他人の預金通帳と印鑑を所持する者、偽造された債権譲渡契約書の持参人、債権者の代理人と詐称して債権を行使する者(詐称代理人)などが該当します。
これらの者には、弁済を受領する権限はありませんので、本来なら、これらの者に対してした弁済は無効となるはずですが、弁済は、日常頻繁に行われる行為であること、債務者(弁済者)は本来債務の弁済を拒めない立場にあることなどを考慮して、法的安定性や弁済者の保護を図るため、例外的に、弁済者が善意・無過失であるときは、その弁済は有効とされました。

上記の取扱いは、新民法の下でも変わりはありませんが、「債権の準占有者」という表現が今ひとつわかりにくい、という批判がありました。そこで、新民法は、次のような改正を行いました。

受領権者(債権者および法令の規定または当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。(新民法478条)

旧民法の「債権の準占有者」という表現を「受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」という表現に改めて、よりわかりやすいものとするとともに、「債権の準占有者」の意味を条文上も明確にしました。

ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点

連載「2020民法大改正|ビジネス実務への影響」、今回は「弁済」について解説しました。

次回は「相殺」について解説します。

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