民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。
そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。
今回のテーマは「消費貸借」です。消費貸借について、従来、判例によって認められていた「諾成的消費貸借」が明文化されるなどの改正がありました。
1. 諾成的消費貸借の明文化
(1)改正の経緯
改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」(旧民法587条)と規定して、消費貸借は、当事者間の合意だけでなく、目的物の引渡しによって成立する「要物契約」であることを定めていました。
例えば、金銭の借入れについて貸主と借主が合意をしても、実際に金銭が交付されるまで契約は成立しないことになり、借主が住宅ローンを利用して不動産を購入しようとする場合でも、合意があった段階では、契約が成立していないため、貸主には金銭を交付する義務(貸す義務)はまだ発生しておらず、そのため、借主は、金銭を交付せよという請求ができないことになり、不都合です。
そこで、この不都合を解消するため、判例は、合意のみによって成立する消費貸借、すなわち、「諾成的消費貸借」というものを認めていました。この諾成的消費貸借においては、合意段階で、貸主に「貸す義務」が発生することになります。
改正後の民法(以下「新民法」という。)は、消費貸借の要物性を原則としつつ、判例法理を採用して、書面または電磁的記録によることを要件として、諾成的消費貸借を明文化しました。
(2)諾成的消費貸借の内容
① 要件
諾成的消費貸借が成立するためには、書面またはその内容を記録した電磁的記録によってすることが必要です(新民法587条の2第1項、4項)。
書面等を要求したのは、安易に消費貸借の合意をすることを防止するためです。
② 貸主の義務・借主の義務
諾成的消費貸借の成立により、貸主は「貸す義務」を負いますが、借主は、金銭等の受領義務(借りる義務)を負いません。借主は、金銭等を受領してはじめてその返還義務を負うことになります。
③ 契約の解除
借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができます(新民法587条の2第2項前段)。
これは、借主に「借りる義務」を負わせない趣旨です。
他方、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができます(新民法587条の2第2項後段)。
これは、資金調達の必要性がなくなった借主に、契約の拘束力から解放される手段を与える一方で、解除により損害を受けた貸主に対する損害賠償義務を負わせたものです。
例えば、相当の調達コストがかかる高額融資のケースでは、貸主に損害賠償請求が認められる可能性があります。
④ 破産手続開始の決定による契約の失効
借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、諾成的消費貸借は、その効力を失います(新民法587条の2第3項)。
2. 利息に関する規定の新設
旧民法は、利息に関する規定を設けていません。このことから、消費貸借は、無利息が原則であると解されています。ただ、現実に行われている消費貸借は、そのほとんどが利息付のものです。
そこで、新民法は、次のように、利息に関する規定を設けました。
① 貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない(新民法589条1項)。
すなわち、消費貸借は、無利息が原則であることを明文化し、例外として、利息の定めがある場合には、利息付となることを明文化しました。
② 特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる(新民法589条2項)。
利息の定めがある場合、利息の発生の起算日は、金銭等の受領日であることを明らかにしました。
3. 期限前の弁済
旧民法は、当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、いつでも返還をすることができる(旧民法591条2項)としていますが、返還の時期を定めた場合に、期限前に返還(弁済)をすることができるか否かについては、規定していません。
ただ、実務上は、返還の時期を定めた場合においても、期限前に弁済することは認められていました。
そこで、新民法は、「借主は、いつでも返還をすることができる。」(新民法591条2項)と規定して、返還の時期を定めた場合でも、借主は、期限前の弁済ができることを明文化しました。
ただし、返還の時期を定めた場合において、借主がその時期の前に返還をしたことによって貸主が損害を受けたときは、貸主は、借主に対し、その賠償を請求することができます(新民法591条3項)。
連載「2020民法大改正|ビジネス実務への影響」、今回は「消費貸借」について解説しました。
次回は「寄託」について解説します。
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