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2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑳ 相殺 その1

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑳ 相殺 その1

民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。

そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。

今回2回に分けて取り上げるテーマは「相殺」です。民法改正により、債権の消滅事由である相殺について、新たなルールが定められています。

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1. 相殺とは

相殺とは、当事者が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、当事者の一方が、意思表示だけで、互いの債務を対当額(同じ額)について消滅させることをいいます。

例えば、AがBに対して100万円の貸金債権を有しており、他方、BもAに対して80万円の代金債権を有している場合において、AがBに対して相殺の意思表示をすれば、互いの債権が対当額である80万円について消滅し、後は、AがBに対して20万円の貸金債権を有することになります。

相殺とは

この場合において、相殺の意思表示をなした方であるAが有する貸金債権を「自働債権」といい、相殺の意思表示を受けた方であるBが有する債権を「受働債権」といいます。

相殺が禁止される場合について改正がありました。改正前と改正後との違いを押さえるために、まず、改正前の民法下における相殺禁止のルールについて説明します。

2. 相殺が禁止される場合|旧民法の規定

改正前の民法(以下「旧民法」という。)は、以下の場合には、相殺をすることができないとしています。

① 債務の性質がこれを許さないとき

例えば、AがBに対してBの仕事を3日間手伝うという債務を負担しており、他方、BはAに対してAの仕事を3日間手伝うという債務を負担している場合には、現実に仕事を手伝わないと意味がありませんから、相殺することはできません。

② 当事者が反対の意思を表示した場合(つまり、当事者間で相殺禁止特約をした場合)

例えば、AとBが互いに債権を有する場合に、相殺禁止特約をしたときは、相殺をすることができなくなります。

ただし、この特約は、善意の第三者には対抗できないとされていますので、AのBに対する債権を譲り受けたCが、Bに対して債務を負担している場合において、相殺禁止特約の存在につき善意であるときは、Cは、譲り受けた債権を自働債権として、BのCに対する債権と相殺することができます。

③ 債務が不法行為によって生じたときに、その債務者がする相殺(つまり、受働債権が不法行為によって生じた債権である場合)

例えば、自動車事故を起こしてAに怪我をさせ、損害賠償債務を負ったBが、たまたま被害者であるAに債権を有していたとしても、その債権と損害賠償債務とで相殺を主張することは許されません。

④ 債権が差押えを禁じたものであるときに、その債務者がする相殺(つまり、受働債権が差押禁止債権である場合)

例えば、扶養債権、恩給債権などは、法律により差押えが禁止されていますので、これらの債権を受働債権とする相殺は許されません。

⑤ 支払の差止めを受けた第三債務者が、その後に取得した債権によってする相殺(つまり、自働債権が受働債権の差押え後に取得された債権である場合)

例えば、下記の図のように、AがBに対して100万円の貸金債権(取得日:2020年4月1日、弁済期:2020年7月1日)を有しており、他方、BはAに対して100万円の代金債権(取得日:2020年2月1日、弁済期:2020年5月1日)を有している場合において、Bの債権者であるCが Bの代金債権を2020年3月1日に差し押さえたとします。

この場合、 Aの貸金債権は、Cの差押え後に取得されたものであるため、Aは、その後相殺適状になったとしても、その貸金債権を自働債権として、Bの代金債権(受働債権)と相殺することはできません。

なぜなら、これを認めると、差押債権者であるCの利益が害されるからです。
Cは、Bの代金債権をもって自分の債権の回収に充てることを期待していますが、Aの相殺を認めると、この期待が不当に奪われることになり、差押えをした意味がなくなってしまうからです。

また、そもそも、CがBの代金債権を差し押さえた時点では、AはまだBに対して債権を有していなかったのですから、Aには相殺に対する期待はなく、これを保護する必要がないからです。

相殺とは

2020民法大改正|ビジネス実務への影響㉑ 相殺 その2へ続きます)

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