民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。
そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。
今回のテーマも前回に引き続き「詐害行為取消権」です。
目次
- 詐害行為取消権の意義(連載第15回)
- 改正前の民法の内容(1) 詐害行為取消権の要件(連載第15回)
- 改正前の民法の内容(2) 取消しの範囲(連載第15回)
- 改正前の民法の内容(3) 取消しの効果(連載第15回)
- 改正前の民法の内容(4) 詐害行為取消権の期間の制限(連載第15回)
- 新民法の内容(1) 詐害行為取消権の一般的要件(連載第16回)
- 新民法の内容(2) 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(連載第16回)
- 新民法の内容(3) 特定の債権者に対する担保の供与等の特則(連載第16回)
- 新民法の内容(4) 過大な代物弁済等の特則(連載第16回)
- 新民法の内容(5) 転得者に対する詐害行為取消請求(連載第17回)
- 新民法の内容(6) 詐害行為取消権の行使の方法等(連載第17回)
- 新民法の内容(7) 詐害行為取消権の行使の効果
- 新民法の内容(8) 詐害行為取消権の期間の制限
新民法の内容(7)詐害行為取消権の行使の効果
① 認容判決の効力が及ぶ者の範囲
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を有します(新民法425条)。
従来の判例は、詐害行為取消しの効力は債務者には及ばないとしてきました。しかし、実際には、詐害行為取消しにより受益者・転得者の債務者に対する反対債権は復活すると解されたり、不当利得返還請求権を行使することができるとするなど、詐害行為取消しの効力は事実上債務者に及ぶことになります。
また、及ぶとしなければ、受益者・転得者が不利な立場に追いやられることになります。
そこで、新民法は、端的に、詐害行為取消しの効力は債務者にも及ぶとする立場を採用し、その旨を明文化したのです。
② 債務者の受けた反対給付に対する受益者の権利
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができます。
債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができます(新民法425条の2)。
③ 受益者の債権の回復
債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(過大な代物弁済等の特則の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、またはその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復します(新民法425条の3)。
これは、判例の見解を明文化したものです。
④ 詐害行為取消請求を受けた転得者の権利
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次のイまたはロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イまたはロに定める権利を行使することができます。
ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付またはその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とします(新民法425条の4)。
イ 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消された場合…その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権またはその価額の償還請求権
ロ 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(過大な代物弁済等の特則の規定により取り消された場合を除く。)…その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば回復すべき受益者の債務者に対する債権
新民法の内容(8)詐害行為取消権の期間の制限
詐害行為取消請求にかかる訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができません。行為の時から10年を経過したときも、同様です(新民法426条)。
旧民法426条は、詐害行為取消権の期間について、「債権者が取消しの原因を知った時から2年」としていましたが、新民法では、「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年」とし、また、旧民法の「行為の時から20年」というのを、「行為の時から10年」と短縮しています。
旧民法の「債権者が取消しの原因を知った時から2年」という表現では、詐害行為そのものの存在を「知った時」が起算点になるのか、それとも、詐害行為の存在に加えて債務者の詐害意思(悪意)まで「知った時」が起算点になるのか、不明確でした。
判例は、ここでいう「知った」というのは、「債務者が債権者を害することを知って当該法律行為をした事実を知ったことを意味し、単に取消権者が詐害の客観的事実を知っただけでは足りない」と判断していました。
そこで、新民法は、このような判例法理を前提に、2年という期間は、「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」が起算点になることを明らかにしたのです。
また、詐害行為取消権を行使するためには、詐害行為の時点から、詐害行為取消権を行使する時点まで、債務者の無資力状態が続いていることが必要ですが、詐害行為の後20年近く経ってから詐害行為取消権を行使するとなると、債務者にとってあまりにも酷であるといえます。
他方、20年もの長きにわたって権利行使をしなかった債権者に、なお詐害行為取消権の行使を認めてこれを保護する必要性は乏しいといえます。
そこで、新民法は、20年を10年と短縮したのです。
詐害行為取消権は、前述しましたように、旧民法下の判例法理を明文化し、取消債権者は、逸出した財産の返還として金銭の支払いまたは動産の引渡しを、直接自己に対して請求することができるとしており、「債権者代位権」と同様に、責任財産の保全という制度本来の目的を超えて、事実上の債権回収機能を有しています。
債権回収の実務に携わるビジネスパーソンとしては、新民法下における詐害行為取消権に関する今後の判例の動向には十分に留意することが必要であろうと思われます。
連載「2020民法大改正|ビジネス実務への影響」、今回は4回に分けて「詐害行為取消権」について解説しました。
次回は「弁済」について解説します。
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