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2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑰ 詐害行為取消権 その3

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑰ 詐害行為取消権 その3

民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。

そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。

今回のテーマも前回に引き続き「詐害行為取消権」です。

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新民法の内容(5) 転得者に対する詐害行為取消請求

債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の①または②に掲げる区分に応じ、それぞれ当該①または②に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができます(新民法424条の5)。

① その転得者が受益者から転得した者である場合…その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき(悪意)。

すなわち、受益者からの転得者が現れた場合、詐害行為の一般的な成立要件(債務者の行為当時、債務者と受益者が共に債権者を害することを知っていた(悪意)こと)に加え、転得者が、転得の当時、債務者の行為が債権者を害することを知っていた(悪意)ときにのみ、債権者は、転得者に対し、詐害行為取消請求をすることができます。

転得者に対する詐害行為取消請求が認められるためには、債務者・受益者・転得者のすべてが悪意であったことが必要であることに注意してください。

② その転得者が他の転得者から転得した者である場合…その転得者およびその前に転得したすべての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき(悪意)。

すなわち、最初の転得者以後、さらに転得者が現れた場合、すべての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者の行為が債権者を害することを知っていた(悪意)ときにのみ、債権者は、当該転得者に対し、詐害行為取消請求をすることができます

前述しましたように、判例は、受益者が善意であっても、転得者が悪意の場合には、転得者に対する詐害行為取消権の行使を認めていました
しかし、破産法は、一旦、善意者を経由すれば、その後の転得者には否認権を行使できないとして、転得者の取引の安全を確保しています。

そこで、新民法は、判例の見解を採用せず、破産法の規定と平仄を合わせて、受益者が善意であるときは、転得者が悪意であっても、転得者に対する詐害行為取消権の行使はできないこととしました

新民法の内容(6)詐害行為取消権の行使の方法等

旧民法は、詐害行為取消権の行使の方法としては、「取消しを裁判所に請求することができる」(旧民法424条1項)として、詐害行為取消権は、訴え(詐害行為取消訴訟)によってのみこれを行使することができることを規定するのみですが、さらに、新民法は、詐害行為取消権の行使の方法等に関して新たな規定を設けています

① 財産の返還または価額の償還の請求

イ 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができます。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができます(新民法424条の6第1項)。

ロ 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができます。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができます(新民法424条の6第2項)。

これらの規定は、判例の見解を明文化したものです。

② 被告(詐害行為取消権の行使の相手方)および訴訟告知

詐害行為取消請求にかかる訴えについては、次のイまたはロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イまたはロに定める者を被告とします(新民法424条の7第1項)。債務者は、被告とはなりません。この点は、旧民法と同様です。

イ 受益者に対する詐害行為取消請求にかかる訴え…受益者
ロ 転得者に対する詐害行為取消請求にかかる訴え…その詐害行為取消請求の相手方である転得者

債権者は、詐害行為取消請求にかかる訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければなりません(新民法424条の7第2項)。

これは、債務者保護の観点から、債権者に訴訟告知義務を課したものです。

③ 詐害行為取消しの範囲

イ 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるとき(金銭債務の弁済等)は、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができます(新民法424条の8第1項)。

これは、前述しました判例の見解を明文化したものです。

ロ 債権者が価額の償還を請求する場合についても、自己の債権の範囲で取消権を行使することができます(新民法424条の8第2項)。

④ 債権者への支払いまたは引渡し

イ 債権者は、受益者または転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払いまたは動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払いまたは引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができます(新民法424条の9第1項前段)。

これは、前述しました判例の見解を明文化したものです。上記の場合において、受益者または転得者は、債権者に対してその支払いまたは引渡しをしたときは、債務者に対してその支払いまたは引渡しをする義務を免れます(新民法424条の9第1項後段)。

なお、債権者は、自己に対して金銭の支払いを受けた場合、当該受領した金銭につき債務者が債権者に対して有する返還請求権と被保全債権とを相殺することにより、事実上優先弁済を受けることができます。

ロ 債権者が受益者または転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、上記イの場合と同様です(新民法424条の9第2項)。

2020民法大改正|ビジネス実務への影響⑱ 詐害行為取消権 その4へ続きます)

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