民法が約120年ぶりに改正され、改正法が2020年(令和2年)4月1日から施行(一部の規定は未施行)されています。
これに伴い、企業がビジネス実務上の影響を受ける点がいくつかあります。改正点についての正確な知識がなければ、不利益を受ける危険性もあります。
そこで本連載では、ビジネスパーソンが押さえておかなければならない、ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点について30回にわたり解説していきます。
今回のテーマも「売主の担保責任」です。前回に続いて、改正後の民法(以下、新民法)における売主の担保責任について説明します。
目次
新民法における売主の担保責任2. 引き渡された目的物が「数量」に関して契約不適合である場合
例えば、100㎡の土地につき1㎡当たり10万円として代金総額が1,000万円と定められて売買契約が締結されたところ、その土地の面積は実際には90㎡しかなく、10㎡不足していたというような場合には、買主には、次の権利が認められます。
(1)追完請求権
(2)代金減額請求権
(3)損害賠償請求権および解除権
ただし、担保責任の期間の制限は存しないことに注意してください。
新民法における売主の担保責任3. 移転した権利が契約不適合である場合
「引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないもの(契約不適合)である場合における売主の担保責任」に関する新民法の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用されます。
例えば、土地を買ったところ、その土地に第三者の地上権や質権が設定されていたような場合や、100㎡の土地の売買契約を締結したところ、その土地のうち10㎡の部分が第三者(他人)に属していたような場合には、買主には、次の権利が認められます。
(1)追完請求権
(2)代金減額請求権
(3)損害賠償請求権および解除権
ただし、前記2.の数量が不足していた場合と同様に、担保責任の期間の制限は存しないことに注意してください。
新民法における売主の担保責任4. その他の注意点
① 権利の全部が他人に属している場合、例えば、Aを売主、Bを買主とする土地の売買契約が締結されたところ、その土地の全部がCの所有するものであり、AがCから土地の所有権を取得してこれをBに移転できなかったというような場合については、旧民法では、売主の担保責任の問題として処理されましたが、新民法では、債務不履行責任の問題として処理されます。
すなわち、他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負いますが、売主がこの義務を履行しないときは、買主は、債務不履行を理由とする損害賠償請求や契約の解除をすることができます(新民法415条、542条)。
② Aの所有する土地につきAB間で売買契約が締結されたが、その土地にはCのAに対する債権を担保するための抵当権が設定され、その旨の登記もされており、抵当権の実行によりBがその土地の所有権を失ってしまったというような場合についても、旧民法では、売主の担保責任の問題として処理されましたが、新民法では、債務不履行責任の問題として処理されます。
すなわち、抵当権の実行により買主が所有権を失ってしまったということは、売主の買主に対する所有権移転義務の不履行ということになるため、買主は、債務不履行を理由とする損害賠償請求や契約の解除をすることができます(新民法415条、542条)。
売主の担保責任等のまとめ
種類または品質が契約内容に不適合の場合 | 数量または移転した権利が契約内容に不適合の場合 | 権利の全部が他人に属する場合または抵当権の実行の場合 | |
---|---|---|---|
追完請求権の有無 | あり(注1) | あり(注1) | なし |
代金減額請求権の有無 | あり(注2) | あり(注2) | なし |
損害賠償請求権・契約の解除権の有無 | あり(注3) | あり(注3) | あり(注3) |
消滅時効期間以外の権利行使の期間制限の有無 | あり 追完請求・代金減額請求をするには不適合を知った時から1年以内に通知をすることが必要(注4) | なし | なし |
(注1)売主に帰責事由があることは不要。
売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、追完請求できない。
(注2)売主に帰責事由があることは不要。
買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
ただし、履行の追完が不能であるとき等一定の場合には、催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、代金減額請求できない。
(注3)売主に帰責事由がないときは、損害賠償請求できない。
契約の解除につき売主の帰責事由は不要だが、買主に帰責事由があるときは、契約の解除はできない。
(注4)売主が不適合を知り、または重過失によって知らなかったときは、この期間制限を受けない。
ビジネス実務に影響を与える主な民法改正点、今回は3回に分けて「売主の担保責任」について解説しました。
次回は「債権者代位権」について解説します。
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